古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

2020-01-01から1年間の記事一覧

#075 滅法貝 めっぽうかい

滅法貝 大きく描かれた二枚貝と思しき姿の妖怪。貝なのにネズミのようなひげや、蝙蝠のような羽や小さな目、本当はネズミのしっぱも生えている。今回は絵にする際、貝の性格を前に出すためにネズミっぽい尻尾を割愛し、代わりに貝の脚と水管を描き足し、鳥山…

#074 真平 まっぴら

真平 ふんどし一枚でまばらな無精ひげ、ネズミのようないかにも力のなさそうな妖怪が、地面にりつくようにひれ伏したまま、上目遣いに辺りを窺って居る姿で描かれている。先ほどの「有夜宇屋志」よりもさらに腰が低い。ただもう世の中が怖くて怖くて、他者と…

#073 狐火

狐火 狐が見せるという怪火。火の玉、人魂全般を指すことも多い。だからこの妖怪だけはこの絵巻物の中では唯一存在するものである。実際は狐は描かれず、青白い火の玉のみが三つ描かれる。ちなみに怪現象の際に出現する青白い火の玉は「陰火」と言って、熱く…

#072 有夜宇屋志 うやうやし

有夜宇屋志 頭を体の中にめり込ませるように、低く低く下げた姿で描かれた、乾いた馬糞のような妖怪。「うやうやし」の名前にふさわしい姿ではある。しかし名前の漢字「有夜宇屋志」何も全部違う字にしなくてもいいのに。 「慇懃無礼」という言葉があるよう…

#071 為何歟 なんじゃか

為何歟 『化物尽くし』の中でも、ひときわ謎の深い妖怪。元の絵では腹から上と脛から下は描かれていない。尻尾の生えた、どうも狸臭い人の体が描かれている。「なんじゃか」の意味を調べてみると「為何」が中国語で「なんで」という意味で、「歟」は反語や感…

#070 為憎 にくらし

為憎 「憎らしい」を調べると、意味は二通りある。 1、気に障って許しがたく思う様。 2、気に障るほど素晴らしい。 とある。ただの「憎い」ではなく、「惹かれる気持ちと同居する」憎さ、劣等感の裏返しのような感情を指すことが多い様に思う。つまりは「…

#069 馬肝入道 ばっかんにゅうどう

馬肝入道 姿からこの妖怪の正体を探るのは困難だろうか。黒衣で赤い目の病的な老人のように描かれている。入道と言っているが、その服装はむしろカトリックの神父を連想させる。そのあたりが絵解きの要だろうか? 馬肝はその名の通り馬の肝。漢方薬の名前で…

♯番外編 アマビエ考

アマビエについて書こう。 1846年の瓦版に登場する。 …毎晩海が光るため役人が確かめにいったところ、姿を現し豊作の予言と、もし疫病が流行った場合は自分の姿を写し、人々に見せなさいと言ったとか。 遡ること2年の1844年にはアマヒコと言うタコのような怪…

#068 汐吹 しおふき

汐吹 ここからは、家国内有数の妖怪資料の収集家、湯本豪一氏が所有する「化物づくし」から妖怪を紹介する。描かれた妖怪はすべて創作(そもそも妖怪はその全てが創作かもしれないが、過去に類似の妖怪が全くいない)で、しかもかなり風刺と諧謔が利いている…

#067 土ぐも

土ぐも 大昔は朝廷に従わない一族の、古文書上での呼び名であった。妖怪としての「土蜘蛛」は鎌倉以降の様々な絵巻物ないし書物に様々な姿で伝えられている上、どの物語をとっても簡単に退治されないという強力妖怪の筆頭だ。古来の伝説もあるのだろうが、創…

#066 なきびす

なきびす 祠なども建っていて信仰の対象にもなっている妖怪神とでも言うべき存在。なきびす、とは泣き虫の意味。正式名は「泣きえびす」だが、地元の人はなきびす様と呼ぶ。 伝説もある。長崎は佐世保の話である。 広田城が攻められいざ落城という時、城兵の…

#065 ぬりかべ

ぬりかべ 海外の博物館にある日本の妖怪図鑑のなかに「ぬりかべ」と言う名前が発見され、少し前に話題になった。 おそらく通行人の目の前に、そんな所には無い筈の壁のようなものが急に立ちはだかる怪異だったと思われる。壁は見える場合も見えない場合もあ…

#064 海男

海男 本当の絵では全身のほとんど海に浸かっていて、実際に描かれているのは頭と背中だけ。だから隠れている部分を大幅に描き足した。よって全く違う絵になってしまっている。海坊主と同スケールで描かれていたが、それではどっちがどっちかわからないのでス…

#063 海坊主

海坊主 「化物之繪」という変わり種の妖怪絵巻がある。この絵巻物は現在日本にはない。海外の美術館の所蔵品なのだ。内容としては「百怪図鑑」図鑑の妖怪がほとんど同じ姿で(しかもとても美しい腕前で)描かれているのだが、数体ほど、出展の違う妖怪画が追…

#038 大化 おっか

大化 これも尾田郷澄の『百鬼夜行絵巻』では名無しであるが、いろんな時代の様々な妖怪絵巻に同様の、または亜種ともいえる姿で描かれ続けている。伝承とは全く無縁の永遠のバイプレーヤーのような妖怪。「化物絵巻」でほぼ同じ姿で描かれたものに「大化 お…

#057 はじっかき

はじっかき 尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』では名前を与えられていない妖怪で、絵だけが乗っている。作者が名前を書き落としたとは考えにくいから、この絵巻物は「今迄に名前または姿が残されている妖怪を描きとめようとした」ものだったかとも思う。他の妖怪絵…

#062 狸の腹鼓

狸の腹鼓 「はらづつみ」ではない。「はらつづみ」である。間違うと料理名のようだ。 人気のない山中、夜の街中で太鼓の音やお囃子が聞こえる。狸囃子ともいう。もちろんいくら探しても何もない。特に太鼓の音は狸が膨らませたおなかをたたいているのだと言…

#036 一つ目坊

一つ目坊 ネーミング的には「目一つ坊」とほぼ同類であるが、その成り立ちに大きな違いがあるので描くことにした。姿も全く別物だ。 どんな妖怪かは謎である。 取り付く島もないが謎である。 最近はネットでもマナーがとやかくいわれています。趣味の世界で…

#061 手目坊主 てめぼうず

手目坊主 座頭の姿をしているが、その両手に目がついている偽物の盲人の妖怪。鳥山石燕の『画図百鬼夜行』でもほとんど同じ姿で「手目(てのめ)」と紹介されている。最近の研究本が軒並み指摘している通り「手目」とは賭博の世界でいう「いかさま」のことで…

#060 窮奇 かまいたち

窮奇 有名な妖怪。下手をしたら妖怪を何も知らなくてもかまいたちの名前だけは知っている人も多いのではないか。 風が強いなと思っていると皮膚が裂けている。痛みを伴わないので気付かずにいると、おびただしい出血でそれと気付く…そういう怪異を指している…

#059 海座頭 うみざとう

海座頭 海坊主の類か。座頭のような姿で波の上に姿を現す様が、鳥山石燕の「画図百鬼夜行」にも描かれている。 ザトウクジラ、というクジラがいる。標準的な個体では体長約13mと中型だが、南半球では最大級で体長19mほどのものもいる。全長の3分の1に達する…

#058 山あらし

山あらし 野生動物である本物の「ヤマアラシ」とは、似ているような似ていないような。どこかである程度は本物の情報も入っているような気がする。本物の姿を見た人間が言葉でそれを他人に伝え、その他人がまた別の他人に言葉で伝え、…と言う事が何度も続き…

#056 べくわ太郎 べかたろう

べくわ太郎 何かの図録で初めて見た時から、その異様な絵姿にすっかり心を奪われてしまった。金太郎に成りそこなった様な容姿の妖怪。頭のてっぺんを剃り、おそらく「大童」にした頭、醜怪なべっかんこう(あかんべえ)でっぷりと突き出した腹。大きな舌と長…

#055 金槌坊 かなづちぼう

金槌坊 絵姿と名前は一致している。「坊主」ではないが、ここでの坊は坊主を指すものではあるまい。「金槌なやつ」というほどの意味か。しかし顔が鳥なのは何故だろう。ひょっとすると天狗の類かもしれない。山に棲む天狗は猛禽類の顔に描かれることが多いう…

#053 白子ぞう

白子ぞう ふつうは描かない。先に紹介した『百怪図鑑』の「しょうけら」の焼き直しだとわかっているから。そんな妖怪は実は結構いる。「目一つ坊」と「横目五郎」、「おとろし」と「毛一杯」、「髪切り」と「天狗の裸子」等など。どうしても「描く側」として…

#052 赤がしら

赤がしら 炎のような赤い頭髪を持った姿で描かれた妖怪。目と鼻の間に垂れている、二股になった舌のような部品が何を表しているのかがよくわからない。肌は黒く、長い腕、しわだらけの胴体、ひざの無い足と異様な姿に描かれている。そして不気味に笑っている…

#051 二本足

二本足 名前の通りの姿。頭が余計だが。私の勝手な持論だが「名前のままの姿に描かれた妖怪は言葉が先にある」と思っている。「名前と姿に直接的なつながりがない妖怪には伝承がある」とも思う。だからこの妖怪も、すべての解釈は「二本足」という名前にあり…

#050 いが坊

いが坊 あごにイガを一杯はやした姿で描かれる妖怪。「イガ」と聞いたら栗ぐらいしか思い浮かばない。かと言っていがぐりを描くとあまりにも直球なので栗の花を描き、栗の花の香り(かなりキツイ)がうっすら入った、5月6月の薫風のイメージを描いた。もう少…

#049 胴面 どうのつら

胴面 胴体に顔がある、名前もそのままの妖怪。先に登場した「五体面」と違い、顔から手足が生えているのではなく胴体と思しき個所に顔がある。もちろん首から上、頭はついていない。 イメージそのものはかなり古い。紀元前5世紀成立のヘロドトスの「歴史」に…

#048 白うかり

白うかり 「うかる」とは古語で、①自然に浮く、浮かぶ。②あてもなくさまよう、ふらふら出歩く。という意味。つまり白くてふわふわ漂う怪異と言う事。欧米でいうところの「シーツお化け」。古今東西を問わないお化けの基本中の基本の姿と言える。 廃屋や夜中…