古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#073 狐火

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狐火

 狐が見せるという怪火。火の玉、人魂全般を指すことも多い。だからこの妖怪だけはこの絵巻物の中では唯一存在するものである。実際は狐は描かれず、青白い火の玉のみが三つ描かれる。ちなみに怪現象の際に出現する青白い火の玉は「陰火」と言って、熱くない炎だという。沖縄以外の全地域で確認されたことのある怪異だ。

 他には類を見ない妖怪ばかりが載って居る絵巻物に、どうして「誰でも知っている」しかも「当たり前すぎて普通の妖怪図鑑では好んで描かれないレベル」の妖怪を収録したのか。理由は二つ考えられる。

 一つは、この化物尽くしには、作者が実際に遭遇したり感じ取った妖怪だけが描かれていると言う事。つまり作者の体験に浮かび上がったものを「妖怪化」して描いていると言う事。「汐吹」の現場を実際に見て、「馬肝入道」的な人物が身近に居て、「にくらし」い態度や「うやうやし」い態度に怪しみ、説明のつかない事件に巻き込まれ「なんじゃか」と思ったのかもしれない。そんな彼は墓場かどこかで「狐火」を見た。と言うのがこの妖怪絵巻全体に適用できる説明である。

 今一つは、あくまでも「寓意的意味を持った、創作妖怪」と言う角度から狐火を描き直しているという考え方。つまりここで紹介されているのは「狐火」であってなお我々が知るところの「狐火」ではない。三つの青い炎にどのような意図があるのだろうか。私にはまだ、思い付けない。

 右下の花は「キツネノカミソリ」。狐に月で「きつねつき」と掛けた。

 図:湯本豪一蔵『化物尽くし』より