鳥山石燕の画図百鬼夜行シリーズに姿がある妖怪。これといった解説もなく、結び付くような伝承も少ない。遊廓に関する寓意画であるとする分析もあるが、この説を採ると沢山の妖怪が遊廓に絡んでいて、フロイトじゃないんだから、と正直思う。戦後には、何名かの妖怪図鑑作家の手によって「醜い娘が成ったものであり、嫉妬深く、体を伸ばして遊廓の二階などを覗く」と言う話が作られたようだ。
せっかくだから、私も先人に習い、この妖怪を今風に「見顕す」ことにしよう。
見たまんま、高みより見下ろす=マウントを取りたがる妖怪である。自分の属する共同体で、マウントを取ることに執心する人には、この妖怪が憑いていると言う。
高年収のハイスペックなパートナーと結婚し、ブランド品を身に纏い、その事を職場の周囲にアピールすることに余念がない。そうして精神的な高みから周囲を見下す事に快感を感じる。彼女にとっては身の回りの全てが自慢とその承認のためにある。自分よりも上位にある人間を見つけると、更に背伸びをし、借金をしてでも自分の価値を上げにいく。それでも届かないときは…。相手の方を引きずり落としにかかる。
程度のさはあれ、しばしば見かけるタイプ。間違いなく現代妖怪だ。
富士山を見下ろすように描いた。
着ているものは紺の絞り染め。高級品だ。
燕も足元に及ばない。
でも、さらに頭上には桜の木があり、花びらを降らせている事に、彼女は気付かない。
そんな絵である。
因みに、ふじ、さくら、つばめは、歴代の特急列車の名前でもある。遊びです。