古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

#036 一つ目坊

一つ目坊 ネーミング的には「目一つ坊」とほぼ同類であるが、その成り立ちに大きな違いがあるので描くことにした。姿も全く別物だ。 どんな妖怪かは謎である。 取り付く島もないが謎である。 最近はネットでもマナーがとやかくいわれています。趣味の世界で…

#061 手目坊主 てめぼうず

手目坊主 座頭の姿をしているが、その両手に目がついている偽物の盲人の妖怪。鳥山石燕の『画図百鬼夜行』でもほとんど同じ姿で「手目(てのめ)」と紹介されている。最近の研究本が軒並み指摘している通り「手目」とは賭博の世界でいう「いかさま」のことで…

#060 窮奇 かまいたち

窮奇 有名な妖怪。下手をしたら妖怪を何も知らなくてもかまいたちの名前だけは知っている人も多いのではないか。 風が強いなと思っていると皮膚が裂けている。痛みを伴わないので気付かずにいると、おびただしい出血でそれと気付く…そういう怪異を指している…

#059 海座頭 うみざとう

海座頭 海坊主の類か。座頭のような姿で波の上に姿を現す様が、鳥山石燕の「画図百鬼夜行」にも描かれている。 ザトウクジラ、というクジラがいる。標準的な個体では体長約13mと中型だが、南半球では最大級で体長19mほどのものもいる。全長の3分の1に達する…

#058 山あらし

山あらし 野生動物である本物の「ヤマアラシ」とは、似ているような似ていないような。どこかである程度は本物の情報も入っているような気がする。本物の姿を見た人間が言葉でそれを他人に伝え、その他人がまた別の他人に言葉で伝え、…と言う事が何度も続き…

#056 べくわ太郎 べかたろう

べくわ太郎 何かの図録で初めて見た時から、その異様な絵姿にすっかり心を奪われてしまった。金太郎に成りそこなった様な容姿の妖怪。頭のてっぺんを剃り、おそらく「大童」にした頭、醜怪なべっかんこう(あかんべえ)でっぷりと突き出した腹。大きな舌と長…

#055 金槌坊 かなづちぼう

金槌坊 絵姿と名前は一致している。「坊主」ではないが、ここでの坊は坊主を指すものではあるまい。「金槌なやつ」というほどの意味か。しかし顔が鳥なのは何故だろう。ひょっとすると天狗の類かもしれない。山に棲む天狗は猛禽類の顔に描かれることが多いう…

#053 白子ぞう

白子ぞう ふつうは描かない。先に紹介した『百怪図鑑』の「しょうけら」の焼き直しだとわかっているから。そんな妖怪は実は結構いる。「目一つ坊」と「横目五郎」、「おとろし」と「毛一杯」、「髪切り」と「天狗の裸子」等など。どうしても「描く側」として…

#052 赤がしら

赤がしら 炎のような赤い頭髪を持った姿で描かれた妖怪。目と鼻の間に垂れている、二股になった舌のような部品が何を表しているのかがよくわからない。肌は黒く、長い腕、しわだらけの胴体、ひざの無い足と異様な姿に描かれている。そして不気味に笑っている…

#051 二本足

二本足 名前の通りの姿。頭が余計だが。私の勝手な持論だが「名前のままの姿に描かれた妖怪は言葉が先にある」と思っている。「名前と姿に直接的なつながりがない妖怪には伝承がある」とも思う。だからこの妖怪も、すべての解釈は「二本足」という名前にあり…

#050 いが坊

いが坊 あごにイガを一杯はやした姿で描かれる妖怪。「イガ」と聞いたら栗ぐらいしか思い浮かばない。かと言っていがぐりを描くとあまりにも直球なので栗の花を描き、栗の花の香り(かなりキツイ)がうっすら入った、5月6月の薫風のイメージを描いた。もう少…

#049 胴面 どうのつら

胴面 胴体に顔がある、名前もそのままの妖怪。先に登場した「五体面」と違い、顔から手足が生えているのではなく胴体と思しき個所に顔がある。もちろん首から上、頭はついていない。 イメージそのものはかなり古い。紀元前5世紀成立のヘロドトスの「歴史」に…

#048 白うかり

白うかり 「うかる」とは古語で、①自然に浮く、浮かぶ。②あてもなくさまよう、ふらふら出歩く。という意味。つまり白くてふわふわ漂う怪異と言う事。欧米でいうところの「シーツお化け」。古今東西を問わないお化けの基本中の基本の姿と言える。 廃屋や夜中…

#046 青女房 あおにょうぼう

青女房 青女房という言葉は本来なら若くて官位の低い女官を指す言葉。鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』の説明によれば「荒れ果てた古い御所に棲む女官の姿をした妖怪で、ぼうぼう眉(剃っていない眉)で鉄漿をべったりと付けて、人が立ち入ると様子を見に来る」…

#045 黄粉坊 きなこぼう

黄粉坊 きなこがどうして妖怪になるのだろう。 黄粉は、「黄の粉=きのこ」の「の」が音便化して「な」に転じた名称であるらしい。同様の例は「神の月⇒かんなづき」「水の月⇒みなつき」にも見られる。 奈良時代ごろに作られるようになり、室町時代には「黄粉…

#044 火吹き

火ふき 江戸は現在において、「火災都市」と言われるくらい火事が多かった都市だ(総数1798回)。大火事だけでも49回、同じ町を何度も火事が襲うということは世界的にも珍しいのだとか。当然、火をつける妖怪が創造されてもおかしくなはい。また「火事と喧嘩…

#043 撫坐頭 なでざとう

撫坐頭 坐等(=座頭)とは、江戸時代の盲人の階級の一つ。もっと広義に、按摩、鍼師、琵琶法師などを呼ぶことも多い。元々は琵琶法師の称号「検校」「別当」「座頭」の一つであった。鎌倉時代から琵琶法師たちは「当道座」という共同体を形成し、活動をした…

#042 後眼 うしろめ

後眼 後頭部に目を持った僧形の後ろ姿に、鈎爪が一本だけついた腕のようなものが描かれた妖怪。正面に目や顔があるのかないのかは元の絵では不明である。 妖怪のイメージは湧きやすい。背後というのは人間の絶対的な死角であり、相手の背後に位置をとる限り…

#041 ぶかっこう

ぶかっこう 一番最近の表記は「ぶかっこう」。少し前まではどの研究本にも「ぶっ法そう=ぶっぽうそう」と書かれていたが。崩し字というのは、後の世の人間にとっては大変難解なものであるらしい。「ぬらりひょん」「おとろし」然り。 仏法僧とは三宝と言っ…

#040 五体面

五体面 顔から手足が生えた姿で描かれた妖怪。「面」から「五体」が生えているから「五体面」と言うのだろうか。でも頭がないから四体面なのではないのか。 「〇〇に手足が生えたような」という言い方がある。一つの物事に一辺倒な性質を意地悪く言った言い…

#047 覘坊 のぞきぼう

覘坊 先の投稿で江戸の僧侶の没落を描いたばかりだが今度は軽犯罪行為に及ぶ坊主が出てきた。妖怪でも何でもない、本当にこんな人が居ただけなのではないか。もともと垣根の隙間から気になる女性を見るという行為は「垣間見(かいまみ)」と言って平安時代に…

#039 じゅうじゅう坊

じゅうじゅう坊 漢字としては「獣獣坊」だろうか。江戸時代には、殺生や肉食の禁を平然と破る僧侶の話が、あるときは滑稽にある時は禍々しく語られるが、実際かなりそういった禁忌は特に市中では緩くなっていたのが現状だろう。釈迦は亡くなる直前に「滅法」…

#037 どうもこうも

どうもこうも こんな話がある。「どうも」という医者と「こうも」という医者がいた。二人は共に優秀な外科医だったが、どちらが一番の外科医かということで話が合わず腕比べをすることになった。まず「どうも」が「こうも」の首を切り落とし(!)、それをあ…

#035 いそがし

いそがし 服もはだけ苦しそうに舌を出しながらなお走っている姿で描かれている妖怪。憑りつかれるとどうなるのかを…説明する必要はないだろう。 江戸では、忙しさ自慢は野暮だと言われたらしい。「忙しいという字は、心(=りつしんべん)を亡くすと書きます…

#034 馬鹿 うましか

馬鹿 馬と鹿、どっちにも似ていない姿で描かれている。 生き馬の目を抜く世知辛い世間。「ウマくやらないと馬脚を現し馬鹿を見るよ」と忠告しても相手は馬の耳に念仏。失敗したところで馬耳東風。馬鹿につける薬はなかったか、しかし馬鹿と鋏は使いようだか…

#033 あすこここ

あすこここ 名前の意味は、「あっちこっち」「あちらにいたかと思えばこちらにも」という意味。瞬間移動する妖怪なのか、それともあちらこちらにいる妖怪なのか。黒い雲か煙の中に複数の妖体が見え隠れする絵が描かれている。各妖体の姿形はバラバラだ。 こ…

#032 にがわらい

にがわらい 苦笑いしている妖怪。苦笑いには、「不本意な状況を受け入れる」感情が伴う。「苦い」気持ちを「笑いで」乗り越えるわけだが、「笑い飛ばす」ほどの力がない。「苦味は残る」のだ。そのあたりが妖怪的なのだろうか。 松井家の百鬼夜行絵巻は、絵…

#031 逆髪

逆髪 熊本県八代市にある松井家に伝わる「百鬼夜行絵巻」ほど、ユニークな妖怪絵巻もないのではないか。伝説も知名度もない「謎の妖怪」のオンパレードである。日本古来の存在ではないが、魅力的な妖怪たちが多数描かれている。 ここからは自分なりの解釈で…

#030 髪切り

かみきり 江戸時代に実際に多発した事件がもとになって描かれたと思われる妖怪。夜中に道を歩く人の髪の毛…髷や元結を切り落としてしまう。男女の見境もなく襲われ、切り落とされた髪の毛はそのまま地面に落ちている。よほど鋭利な刃物を使うのか、髪を切ら…

#029 猫股 ねこまた

猫また しっぽが割れていないのである。最初に思ったことはそれだった。尻尾が又に分かれるから猫またというのかと思っていたが、少なくとも妖怪絵巻のそれは一本しかしっぱが描かれていなかった。化け猫のことを猫股とも言い、尾が分かれているかどうかは大…