古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#033 あすこここ

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あすこここ

 名前の意味は、「あっちこっち」「あちらにいたかと思えばこちらにも」という意味。瞬間移動する妖怪なのか、それともあちらこちらにいる妖怪なのか。黒い雲か煙の中に複数の妖体が見え隠れする絵が描かれている。各妖体の姿形はバラバラだ。

 これ一体だけで、妖怪の説明が全部済んでしまいそうな妖怪だが、当時の江戸の町には何がいたのだろうか。ネズミやゴキブリならたくさんいただろうが、そういうものを連想させるイメージは何も描かれていない。

 妖怪の数、4には何か意味があるだろうか。四は死に通ずる。確かにあっちもこっちにもあるものだ。顔色は? 勝手に変えてしまったが、元の絵では赤、青、黒(っぽい青)、白である。

 死んだ人を指す隠語で、赤鬼、青鬼、黒鬼、白鬼というものがある。現在は検視官や警察官が死体の状況を伝えるために言うスラングだが、この言葉はいつごろから使われているのだろうか?因みに赤鬼が腐乱が始まって膨れ上がった遺体。青鬼が腐乱が進んで虫が湧いた遺体。黒鬼が腐敗して黒くなり、原形をとどめなくなった遺体。白鬼が白骨化した遺体である。江戸の町にはこんなものがごろごろしていたのだろうか。

 むしろ、フランスでいう「メメントモリ」(死を忘れるな)の精神であったのかもしれない。世の中いいことばかりじゃない。天下はいつまでも太平ではない。江戸時代はあと30年余りで終わる。そんな頃の絵。

 図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より