古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#078 蟹鬼 かにおに

f:id:youkaigakaMasuda:20200510072942j:plain

蟹鬼

 ここまでの妖怪達とは逆に、いくらでも解説がつけられそうなのがこの蟹鬼である。蟹の鬼なのだから妖怪で間違いない。

 蟹の妖怪話で有名なのは「なぞなぞを出す妖怪」の話だ。無人の荒れ寺に泊った旅の僧の前に夜中、巨大な僧が姿を現してなぞなぞを出す。「四手八足両眼天に指すはいかに」と言う内容だが…すでにセリフの最後に答えを言っているのではないかと思うが。旅の僧が「蟹」と言うと姿を消し、翌日寺の裏の沼から畳ほどのサイズの蟹が見つかり退治される、と言う話だ。なぞなぞの通りに考えると手が二本多い気がするが「四手」とは爪の数だろうか。

   口から「?」の泡を出したのは私の遊びだ。しかし蟹の妖怪に「なぞなぞを出す性質」を与えたのはユニークな発想である。先ほど深く考えずに書いたが「如何に」に引っかけた駄洒落が正しいのかも知れない。私だったら単純に「会議を横ばいにさせ、みんなに泡を吹かせてしまう」なんて妖怪にしてしまうが。

 ちなみにこの妖怪、元の絵でもモチーフにされているのはワタリガニ。江戸の町では庶民的な蟹だったらしい。妖怪画からでも当時の画家の懐事情がうかがい知れるのは面白い。しかもこの画家はカニを食べてはいなかったかもしれない。なぜなら、この妖怪の脚のつき方は本物のワタリガニと逆だからである。手足の描写もおかしいので、胴の殻しか見たことのない人が描いたのではないかと思う。その場合、かなり貧乏な画家が描いたことになる。本家ワタリガニに敬意を表して、泳ぐための5番目の脚を描き足した。ハサミや脚は全然蟹の物ではないのだが、ここは元の絵に忠実にした。

 図:湯本豪一蔵『化物尽くし』