またまた説明のつけにくい妖怪が現れた。ただただ蛇である。ちょっときれいな色をした蛇が波打つような姿で描かれている。蛇は確かに「人が本能的に嫌う生き物」と言う説が出たり聖書では人間の欠点を神の前にさらけ出させる役割を担う悪役であり「生理的に」と言う言葉では説明が足らないくらい人間との距離がある生命体である。その存在自体が現存する妖怪と言っていい。
しかし蛇は妖怪ではない。少なくとも現存する生き物を収録する趣旨はこの妖怪絵巻には無いだろう。この妖怪の名前は「蛇」ではなく「飛代路理」である。つまりツチノコや手負い蛇とならぶ、蛇の妖怪の一つと言う事だ。
名前に頼るしかない。漢字は蛇の様子を意識した当て字だろうと判断する。「びょろり」と言うのは辞書には載って居ないが擬態語だろう。長いものが一気に飛び出したり躍動するさまを感じさせる。蛇の要素のそういう部分だけを切り取って単独で妖怪としたものだろうか。「出た」と言う瞬間の「それ」が何か認知するかしないかの瀬戸際に先に発生する恐怖。そこにのみ出現する衝動とも本能ともつかない感情を引き出す妖怪だろうか。
蛇の妖怪だから、周りに描いたのはヘビイチゴ。ヘビイチゴの藪をつついてヘビを出した図。
図:湯本豪一蔵『化物尽くし』より