古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#076 充面 じゅうめん

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充面


 もしこれが「渋面」なら、渋い顔した妖怪として「江戸の渋い顔事情」を調べ怪説とするのだが漢字は「充面」だ。「充」の字は「ふくよかな人を表す文字。おなかが大きい人が立っている姿だ。体力も気力も満ちているため、「満ちる」「あてる」「ふさぐ」などの意味を持つようになった。顔面のパーツが顔いっぱいに広がっている、と言う事か。確かにアクの強い顔には描かれている。

 個性や人格を示す語、パーソナリティーの語源はペルソナつまり仮面だったはずだ。我々は誰だって、社会人としての仮面(=パーソナリティー)をつけて生活をしている。それぞれが人と違った個性を出していいし、中には個性を出さなくてはいけないと強く主張する方もいる。

 そのようなわけで今の世の中は様々な面(個性)が充満しているわけだが、昔はこうではなかった。村や町などの共同体は構成員皆が同じ個性を持つことが重要視され、そのための行事や儀式が毎年同じように行われていた。個性があるなどと言う事は、共同体からの離脱、自らよそ者になる事を意味していた。その風潮が次第に薄らぐのが戦国時代~江戸時代である。いろんな人物が「他人と違うことで名をはせる」風潮は多くの武勇伝や有名人を生み出した。

 化政文化のころには印刷技術も発達し、そういった下地から誕生した英雄物語が多く出版され世の中が個性で満ち溢れた時代となった。そこに一言物言いをつけたくなって描かれた妖怪かもしれない。

 日本の伝統的な仮面劇と言えば、どうしても能を連想してしまう。能面で画面を埋めてみた。真ん中の妖怪は、しかめっ面「渋面」をしている。実はもとの絵ではそんなに顔をしかめてはいないのだ。

 図:湯本豪一蔵『化物尽くし』より