大きく描かれた二枚貝と思しき姿の妖怪。貝なのにネズミのようなひげや、蝙蝠のような羽や小さな目、本当はネズミのしっぱも生えている。今回は絵にする際、貝の性格を前に出すためにネズミっぽい尻尾を割愛し、代わりに貝の脚と水管を描き足し、鳥山石燕の「画図百鬼夜行」に描かれる、「蜃気楼」を意識して夢を吐き出す構図にした。でも本当はネズミの妖怪かもしれない。
「めっぽうかい」とは「滅法界」と言う仏教用語。「全ての煩悩から抜け出した、安らかな悟りの境地」から転じて「とんでもなく(すごい)」「途方もなく(素晴らしい)」上方では「めっぽがいな」とも言う。
言葉遊びで絵になった妖怪だと思うので途方もない妖怪なのだろうが何が途方もないのか。サイズか。確かにこの絵巻物の中でも特に大きく描かれている。
例えば、深山に棲むほら貝は山で3千年、里に三千年、海に三千年を経て龍になるという話がある。滅法貝は二枚貝だから、龍になることはない。でも「自分は龍になりたい」という希望を持ってしまったら、それは「めっぽうかいな夢」であるだろう。
井の中の蛙大海を知らず、海の底に潜む大きな貝は自分の夢がどれほど壮大かを知ることはない。世間を知らないからこそ夢は大きく持てる。古今東西の若者などは皆そうだ。「プロのスポーツ選手への夢」「漫画家への夢」…誰しも手が届きそうに思っている時期がある。その根拠のない自信を妖怪と見たものか。
周りに配したのは「海松文様」口から画いた吐息の中には龍への夢を描いた。
え、見えない? これは現物を見ないと見えない。この写真を撮った後に描き足した。会場に足を運んでくださる人への特権としたい。
図:湯本豪一蔵『化物尽くし』より