古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

131 #垢舐め

江戸時代元禄期辺りから描かれたり語られたりしたらしい妖怪。姿に多少の違いはあるが、風呂場に現れ、垢を舐めて食べる。

率直に言って、気持ち悪い。

江戸の町は享保期には百万人規模だった。公衆衛生は不十分で、大通りは下水の匂いが酷かった、なんて話も聞く。家に風呂がない町人も多く、したがって銭湯を利用していた。なかには汚い風呂屋もあっただろう。そう言う時代背景のなかで必然的に誕生した妖怪なのだろう。「あそこの銭湯は、垢舐めでも出そうなくらいだ」などと言う風に。

今だって、不潔な場所には「いろんな菌が発生するから危険だ」などと言われ、我々は、その目に見えない菌に怯え、避けようとする。その感覚とこの妖怪は無縁ではない。

垢は、一見清潔に見える浴室の、足元、物陰など目につかない場所に溜まっていくものだ。人が使う以上、完全に清潔な空間はあり得ない。垢は、言うなれば必ず存在するバグのようなものだ。古今東西を問わない。

今までも妖怪の絵に、時々現代の意匠を加えてきた。今にも生きる妖怪画を描きたいからだ。汚れた浴室の気持ち悪さはそっくり現代に持ってこれる、と思って描いた絵である。