古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#044 火吹き

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火ふき

 江戸は現在において、「火災都市」と言われるくらい火事が多かった都市だ(総数1798回)。大火事だけでも49回、同じ町を何度も火事が襲うということは世界的にも珍しいのだとか。当然、火をつける妖怪が創造されてもおかしくなはい。また「火事と喧嘩は江戸の華」などと言うから争いの方の火種も絶えなかったに違いない。そちらの方もこの妖怪の仕業にされたかどうかは、わからない。

 顔がふいごのようである。火を噴くというよりは人の心の中にくすぶる小さな火種に空気を送り込み激しく燃やすことのできそうな顔つきである。そして実際、江戸では喧嘩や付け火が起きていた。

 恐らく現在はデジタルの世界にも入り込み、ネット上での「炎上」操作に一役買っている。デジタル世界の不和の炎が、やがては現実の戦火となることを期待しながら。

 蛍を描いたのは、蛍は英語で「ファイアーフライ」と言うから。そして戦争を描いたある映画のタイトルを思い出したからである。古今戦争は必ず大きな炎の形で終結を迎える。京都、大阪、東京、広島、長崎。完全に復旧し久しく見えるこれらの土地にも、住む人の心の中にはまだ火種が燻っている。その背後には必ずこの妖怪が佇んでいて、火事の再来を待ち望んでいる。

 図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より