古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#093 片輪車 かたわぐるま

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片輪車

 実は意外と少ないのが「恐ろしい妖怪」。しかしこの片輪車だけは非常に恐ろしい妖怪だと言っていい。夜な夜な女の乗った片輪の車が炎に包まれながら市中を徘徊する。子供をさらう事がある。見てしまうだけでも祟るし、そのことを口外しようものなら更に酷い目に合う。自分の背後で寝ているはずの子供を攫われ、目の前で喰われた母親の話もある。現在の都市伝説に近い、不条理で逃げ場のない祟り方が他の妖怪とは一線を画しているように思う。今では「輪入道」と呼ばれている妖怪も、かつては「片輪車」の一つの形態であったそうだ。「諸国百物語」では、只の車輪の姿であるらしい。

 因みに、着物の文様としての「片輪車」は縁起ものだ。車輪は木製なので、乾きすぎると強度は下がり、ひび割れする。現在のゴム製のタイヤのように弾力を与えるため、外して川に浸けておく習慣があった。下半分は水面下にあるので、川から顔を出す半分だけの車輪の文様を「片輪車文様』または『源氏車文様』といい、車の回転と水の流れを組み合わせ、日本的な無常観にも通じる意味の深い文様とされている。

   フランスの「メメント モリ=死を忘れるな」に通じる、人の命のあっけなさを体現した妖怪であろうか。当時の子供の死亡率などにも要因があるのかも知れない。

 図:岡島陽城『お化け絵巻』より