古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#086 姥が火

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姥が火

 老婆の顔が見える怪火。『百妖図』には何故か違うデザインで二体紹介されている。経緯はわからないが、関西に伝説が二つあるからだろうか。二つのうち、より見たことがない方の(変わった)デザインを採用した。こちらは巻物の最初のあたりに描かれていたので、出来に不満を持った作者が中盤に描き直したのかもしれない。後で登場する方がデザイン的には優れているように思う。

 伝説の残る妖怪である。河内の国で平岡神社の油を盗んでいた老婆が死後にこの火になったという伝説と、丹波の国で子供を攫って川に流し悲しむ親に新しい子供を斡旋してその料金を取っていた老婆が洪水で溺死、それから川に火の球が飛ぶようになったという伝説がある。実は炎の中に姥の顔があるという伝説は無いようだ。人の頭くらいの怪火であるという。

 こういう妖怪を見るたび、昔の女性のことを思う。年老いてすべてに衰え身寄りもない女性が、モノのない時代を生きていくには、「強欲婆」になるしかなかったのだろうか。恐らく想像を絶する孤独と飢餓に世を呪い、生きながらに人の心を失い半ば妖怪になってしまったいたのかもしれない。死んで人間の肉体がなくなると、その心だけが残るわけだ。そして不条理だった世の中に憤り、赤く燃えて飛んでいく。

 図:大屋書房『百妖図』より