古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

135 #五徳猫

鳥山石燕の百鬼徒然袋に描かれる。五徳(ガスコンロの鍋を乗せるあの部分)を角のように頭に乗せ、火吹き竹を持って囲炉裏の火を起こす化け猫(ただし、言われないと猫には見えない)。解説は「七徳の舞を二つ忘れて「五徳の官者」と呼ばれた話(徒然草の信濃前…

134 #舞い首

神奈川は舞鶴の伝承。Wikipediaによると、鎌倉時代、小三太、又重、悪五郎という3人の武士が祭の日、酒の勢いで口論となり、刀の斬り合いとなり、お互いに頸をはねあい、海に落ちた。以来この海では3人の首が食い争い、夜には火炎を吹き、昼には海上に巴模様…

133 #於菊虫

有名な国民の怪談、「番町皿屋敷」のスピンオフのような妖怪。 実在する、ジャコウアゲハの蛹がそうである、と言われている。 日本中に伝わる「お菊伝説」。家宝の皿を割ってしまった女中のお菊は、手打ちにあって屋敷の井戸に投げ込まれる。全国に似た話が…

132 #高女

鳥山石燕の画図百鬼夜行シリーズに姿がある妖怪。これといった解説もなく、結び付くような伝承も少ない。遊廓に関する寓意画であるとする分析もあるが、この説を採ると沢山の妖怪が遊廓に絡んでいて、フロイトじゃないんだから、と正直思う。戦後には、何名…

131 #垢舐め

江戸時代元禄期辺りから描かれたり語られたりしたらしい妖怪。姿に多少の違いはあるが、風呂場に現れ、垢を舐めて食べる。 率直に言って、気持ち悪い。 江戸の町は享保期には百万人規模だった。公衆衛生は不十分で、大通りは下水の匂いが酷かった、なんて話…

130 #死神

桃仙人夜話「絵本百物語」に紹介される怪。 死んだ者の悪念が死んだ場所などに留まり、生者を引っ張り、同じような死に方をさせる。 つまり現在でもよくある怪談の先駆け的な存在。縊鬼や七人ミサキと同類の怪異だ。 「絵本百物語」の挿絵では、軒の下に人を…

129 #川獺 かわうそ

子供の姿に化けて、酒を買いに来る妖怪。 今なら即NGである。現在は、逆に、子供が大人のふりをして酒を買いに来る時代だ。 舌が短く、言葉は上手に話せない。 「俺だ」と言えずに「あわや」とか「うわや」と言う。「どこから来た」と聞かれると、「かわい」…

128 #蛇骨婆

鳥山石燕が紹介していることで知られる妖怪の一つ。解説に「中国大陸の一地方に、右の手に青蛇、左の手に赤蛇を持つ人が居ると言うが、蛇骨婆はこの国の人だろうか。或いは、蛇塚の蛇五右衛門(じゃごえもん)と云う者の妻で、人呼んで「蛇五婆(じゃごばあ…

127 #鍋島猫、または#グリマルキン

猫はどこにでも入り込む。そして、最初からそこが、自分の居場所であったかのように振る舞う。物語の中にあってもだ。 江戸時代成立期。 佐賀の国では龍造寺家が衰えていた。元家臣の鍋島家、隣国の有馬家の方が幕府からの信任も厚く、龍造寺家は名目上の藩…

126 #天狗

存在が大きすぎて、説明し尽くすには一冊以上の本がいる、鬼と並ぶ日本の?妖怪の最古残。ルーツをたどると中国まで行ってしまうかもしれないが、詳しくはない。 鬼が人にまつわる怪異の総称で、天狗は自然界のそれ、と理解していた時もあったが、そう簡単に…

125 #二口女 #食わず女房

後頭部にも大きな口がある女性の怪。中でも「食わず女房」は山姥の類とされる。山姥すべてに後頭部の口があるわけではないから「二口山姥」とか言いそうなものだが、私は知らない。「女房」と言うくらいだから山姥なのに比較的若い(と言っても年増くらい?)…

124 #姦姦蛇螺 かんかんだら

姦姦蛇螺(かんかんだら)は女性の化物で、腕は6本、下半身は大蛇である。森に封印されていて、人が迷い込むのを窺っている。6本の木を、6本のしめ縄で括った六角形の空間が、彼女のテリトリーだ。空間の中心に箱が置かれ、中に壺と、楊枝のような棒が並べて…

123 #おりたたみ入道

水木しげる氏が、漫画「ゲゲゲの鬼太郎」に登場させた妖怪。氏の創作であると言われている。しかし実際、誰かの創作ではない妖怪は少ない。下手をしたら全ての妖怪は人に名付けられた時から誕生した、と言う点では、創作と言える。ライオン等のように、人が…

122 #飛縁魔 八百屋お七乃場合

八百屋お七は実在の女性である。 江戸本郷の八百屋の娘。恋心を抱いた相手との再会を夢見て、放火事件を起こし火刑に処されたとか。後に井原西鶴の『好色五人女』の作中で紹介され、有名になった。 「飛縁魔」は仏教用語、女の色香で身を滅ぼす愚かさを諭す…

121 #木魚達磨

達磨のようななりの、木魚の姿で描かれている妖怪。初めて絵にした(紹介した)のは、おそらく鳥山石燕。彼の解説によると、仏具の妖怪であるとのこと。 木魚とは、魚の目は開いたままであることから、修行僧への不眠不休を説くものとされ、いっぽう達磨=達磨…

120 #滝夜叉姫

妖怪ではなく妖術使い。 ウィキペディアを要約すると、 江戸時代の読本(山東京伝)に登場する。福島県に墓碑があり『滝夜叉姫が将門の死後に再興を図ったが失敗し出家した』とある。 平安時代、父将門が討たれ、生き残った五月姫は丑の刻参りを繰り返すように…

119 #清姫、または蛇身

白河より熊野に参詣に来た僧は大変な美形であった。名を安珍という。豪族の娘、清姫は宿を乞いに来た安珍に一目惚れし、その晩誘惑する。困惑した安珍は、「必ず帰りには立ち寄る」と嘘を伝えて去った。 嘘に気付いた清姫は安珍を追う。安珍は神仏に助けを求…

118 #朱の盆

会津若松に伝わる妖怪。 いくつかの話が残るが、共通点は真っ赤な顔をした鬼。という所か。 戊辰戦争。会津若松では、まさに血戦が行われ、沢山の血が流れたと聞かされた。家臣の家族の自決、日新館、白虎隊、覆水盆に帰らず。 今や観光地となった鶴ケ城、家…

117 #以津真天 いつまで

1334年、建武の親政が始まった年、疫病が広く興った。政治的な混乱の中、遺体は長く放置された。すると「いつまでも、いつまでも…」と鳴く怪鳥が現れた。これを射落とすと、顔は人のようで曲がった嘴には鋸のような歯が並び、体は蛇体、で、両足の爪は剣のよ…

116 #チクリ

昭和時代の「妖怪尽くし絵巻」に描かれた妖怪。芸者の首にサソリの体を持つ。作者の解説はないが、非常に寓意性に富んだデザインである。 全然関係は無いが、「さそり座の女」と言う歌があった。女性の、惚れた男に対する執念のような感情を歌にしたものだが…

115 #朧車

昔、賀茂の大路を、朧月夜に車の軋る音を立てるものが居た。出て見てみると異形のモノだった。車争いの遺恨であろうか。とは、これを最初に絵にしたと思われる鳥山石燕の言葉。 受験シーズンも大詰めである。 学生は名門の席を取り合っている。ある桜は咲き…

114 #枕返し

寝ている人の枕を、足元の方やあさっての方に転がしてしまう妖怪。そんな事しかしない、とは思えない程の仰々しい姿をしている。 鳥山石燕が描いた妖怪のうち、その姿が市民権を得なかった数少ない一例。何故かと言うと、画図百鬼夜行に掲載された絵が、薄す…

113 #釣瓶下ろし

木のてっぺんから釣瓶のようなもので人を引っ張りあげ、食ってしまう妖怪。最後に犠牲者の首を落とすとか、いやいや落ちてくる首が妖怪で、その首は大きくて、落ちるなり大越でゲラゲラ笑い出すとか、とにかく形の定まらない妖怪だ。誰かが書いていたつるべ…

112 #三大怪談

前から三大怪談を絵にしようと思っていた。 一枚ずつ描こうかと思って居たのだが、思いつきでまとめてしまった。・お岩さん。有名すぎるアイコン、「提灯お岩」を自分風にデザインした。江戸時代、鶴屋南北の歌舞伎や三遊亭圓朝の落語「東海道四谷怪談」で有…

111 #虎にゃあにゃあ

あるお金持ちがなくなり、遺族はお葬式の為にお寺に連絡した。 やって来た僧侶は早速式の準備やら手続きやらを始めたが、途中で戒名の話になった。僧侶は三つの戒名を示し、それぞれ90万、60万、30万円だ、とお布施の額を提示した。 遺族たちは実利主義者だ…

番外編 #具乱怒物乃怪 ぐらんどもののけ

大昔からペン画も描いている。むしろこちらの方が現在は市民権を得ている。とんでもない妖怪を「創作」してしまった人が居る。その人の事は置いておいて、とんでもない妖怪の方を話そう。 まず名前からしてスゴい。伝説っぽくしようとか、日本の風土を感じさ…

110 #がしゃどくろ 餓者髑髏

詳しい解説は情熱溢れる昨今の妖怪研究家の皆様にお任せしつつ。 妖怪は本質的に、必ず誰かが創作したものだ。 一から創造するにせよ、当時の都市伝説に名前を与えただけにせよ、必ずそこに産みの親、ないし名付け親がいる。基本は一人の人間だ。 だから、創…

109 #泥田坊

酒浸りのダメ息子が、売り払ってしまった田んぼに夜な夜な現れ、「田をかえせ!」と叫ぶ。親父の怨霊が妖怪化したものである。一つ目で、泥まみれである。 愛好家、研究家達の手によってかなり研究、分析が進んでおり、鳥山石燕が創作した、遊郭を風刺する妖…

108 #歯黒べったり

お歯黒で真っ黒になった口、以外はのっぺらぼうの顔を、人に見せて驚かせる妖怪。背を向けて登場し、振り向けばもうクライマックス。真っ黒な口でゲラゲラ笑うと言う、洗練された「脅かしのテクニック」を使う。 江戸時代後期の書『絵本百物語』にて紹介され…

107 #大百足

見た目がアレなもので、各地に伝承が残っている虫。 実際のものでも最大のものになると、40㎝のものも居るが、これが妖怪となると、一気に3mや10mにサイズアップする。 中でも最大を誇るものは、やはり俵藤太が退治したとされる大百足。幅15キロの比良山地を…