古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

110 #がしゃどくろ 餓者髑髏

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詳しい解説は情熱溢れる昨今の妖怪研究家の皆様にお任せしつつ。
妖怪は本質的に、必ず誰かが創作したものだ。
一から創造するにせよ、当時の都市伝説に名前を与えただけにせよ、必ずそこに産みの親、ないし名付け親がいる。基本は一人の人間だ。
だから、創作妖怪、と言う言葉は本来なら意味の重複だ。創作されない妖怪は、居ない。
大切なのは、誰が名付けたか、ではなく、「名付けられたソレ」が、どのくらい市民権を得たかだ。

さて、「がしゃどくろ」である。
1960年代に斎藤守弘氏が紹介したこの怪異は、過去に何の原典も持たないのに、あっという間に日本の妖怪の世界に馴染んでしまった。当時有名になり始めた水木しげる氏が、江戸の(これまたがしゃどくろとは全く関係のない)アイコン(歌川国芳の滝夜叉姫)を持ち出し、名前と合体させてしまったところ、あまりのマッチングぶりに、瞬く間に市民権を得てしまったらしい。…もっとも、彼らは我知らず、「大妖怪誕生の巫女」を務めたに過ぎなかったのかもしれない。インスピレーションとは本当はそんなものではないのか、私達は一人残らず、「描かされている」のではないか、とたまに思う。

この妖怪は、野垂れ死に等で埋葬されなかった骸骨の怨念が集まり、巨大な骸骨となり、夜中に音を立てて(がしゃがしゃ)さまよい、人を襲って食べるという。だから名前には、「餓者髑髏」の字を当てると云う。

餓鬼の大入道、と言ったイメージか。
それならば、アイコンは修正しても悪くない。
骸骨だと、何を食べても顎から抜けてしまう。それも面白いと思ったが、ここは食欲を見えるように絵にしたいところ。だから内蔵をつけることにした。

目の前にあるのは、土饅頭。簡単ながらも埋葬され、安らかに眠る魂たちだ。
がしゃどくろからしてみれば、さぞ憎かろう。
今から食事が始まる。眠れる屍たちを全て食べ終わる頃には、彼はまた、眠りを覚まされた魂たちによって、一回り大きくなって居るだろう…。ああ饅頭怖い。