これも尾田郷澄の『百鬼夜行絵巻』では名無しであるが、いろんな時代の様々な妖怪絵巻に同様の、または亜種ともいえる姿で描かれ続けている。伝承とは全く無縁の永遠のバイプレーヤーのような妖怪。「化物絵巻」でほぼ同じ姿で描かれたものに「大化 おっか」の名前が示されてる。
「おっか」そのものは新潟地方の妖怪の児童語。北海道と首都圏でいうところの「オッカイオッカイ」「オッカイモン」「オッカテー」「オッキー」「オッケー」新潟では「オチャイモン」「オチャモン」、岡山の「オチョ」、愛知の「オチョイ」、島根の「オゼーモン」「オゼモン」、香川県の「オゼンモ」、広島地方の「オゼーオゼー」である。どうも標準語の「おっかないもの」という意味であるように思う。
インパクトのある姿が多くの絵師の心をとらえ、他には何の情報もないのにたくさんの妖怪絵巻に描かれることになったのだろうか。もしそうならその姿だけで万人が「妖怪と認定」せざるを得ないという純度の高い「妖体」を持った存在と言える。ビジュアル系妖怪の元祖であり伝説、そして最強の妖怪だ。彼が妖怪として成立するにあたってはその姿だけで十分で、「名前」すら必要としなかったからだ。
どうしても名前が必要であれば、「大いなる化物」「大化」の名がふさわしい。
脇役もたまには主役、だから某有名日本画を背景に回してみた。
図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より