古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#054 赤舌 あかした

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赤舌

 大きく口を開き、髪を振り乱し、二つに割れた舌を突き出した姿に描かれる。両目は飛び出している。『百怪図鑑』で「あか口」と紹介される妖怪と同一とされているが、よく見ると名前が違い、さらにビジュアルも百怪図鑑と全く違うので(この絵巻物全体としては先に紹介した百怪図鑑のデザインを尊重して描かれている。名前違いは多くいるのだが…)、別の妖怪だと考えてみたい。

 赤舌神とは本来は陰陽道で、極悪、忿怒、衆生を混乱させる神のことだそうだ。なるほど絵の雰囲気と矛盾はしていない。大口を開けているうえ、舌が二枚あるから、「大きい口をたたく」「二枚舌を使う」ことによって「衆生を混乱させる」流言飛語の妖怪かもしれない。時代的に見ても印刷技術の発達で江戸の町には情報があふれるようになった頃だと思う。

 末期。瓦版は無許可で出版されていた娯楽志向の読み物だった。スポーツ新聞顔負けの奇想天外な記事が多く、妖怪も盛んにネタとなった。現存する資料はそんなに多くないが、大量出版されるようになったのは天保の改革期以降で、明治期になって新聞の登場により衰退した。現存する最古の瓦版は大坂の陣の記事だというから驚きだ。

 黒い噂を嵐のように世間にばらまく妖怪だろうか。黒雲は雨雲だから、水分をたっぷり含んだ舌の根はなかなか乾かないのだろう。

 図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より