あごにイガを一杯はやした姿で描かれる妖怪。「イガ」と聞いたら栗ぐらいしか思い浮かばない。かと言っていがぐりを描くとあまりにも直球なので栗の花を描き、栗の花の香り(かなりキツイ)がうっすら入った、5月6月の薫風のイメージを描いた。もう少しうっすら描いた方がいい気もしないでもないが。
イガ、という言葉にはもう一つ意味があり「衣蛾」、実は衣類を繰って穴をあけてしまう虫の名前である。クローゼットに棲み、肉眼で確認できることは殆どなく、でも衣類にはしっかり穴をあける。最近では防虫剤でほとんど完全に駆除されてしまうあの虫は実はガの幼虫なのだ。意外にも。
だから『しまってある服に、あごのイガで小さな穴をあけていく妖怪』などと言ったらかなりな説得力だと思う。元の絵でも着ている着物がとてもおしゃれだ。もちろん虫食い穴は描かれていないが。
図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より