古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#091 うその精霊

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うその精霊

 川崎市市民ミュージアムが所蔵する「化物絵巻」には、おおむね『化物尽くし』と同じ妖怪が掲載されているが、この「うその精霊」だけは別である。この絵巻でしか見ることができない。「うそ」とは鳥の一種。「鷽」である。元の絵でも服の柄としていっぱいに描かれているので、間違いはないだろう。

 ウソはスズメ目に分類される。名前の由来は鳴き声で口笛を指す古語「うそ」から来ている。細く高いその鳴き声は古くから愛されており江戸期には「うそひめ」とも呼ばれた。基本的には灰色で頭と尾が黒く、喉元だけにサーモンピンクが入る洗練されたデザインの鳥である。

 材木の虫を食べる益鳥であり、「鷽」の字が「學」と似るために、大宰府や亀戸では「天神様の使い」と見なされる。蜂に襲われた菅原道真を鷽の大群が助けたという話も伝わる。「うそ」と言う音は「嘘」にも通じるということで「前年にあった災厄や凶事をみんな「嘘」にして今年は吉となることを願う「鷽替え神事」が天満宮では行われ、鷽を模した木彫りの「木うそ」を信者同士で交換し合う。神社によって実施日時は様々だが、おおむね1月頃に行われる。

 そんな神様の使いである「うその精霊」が、この姿とはどういうことだろう。鯰のようなのっぺらぼうだ。愛知県の岡崎天満宮の「土焼きの鷽」は一見鯰のようだが、それとは全然似ていない。「鷽」とも通じる「嘘」の精霊なのか。例えば鰻は虚空蔵尊の使いなので、食べることが禁忌になっている地域は多い。そこで「鰻と偽って」鯰で代用したのが「うそ」だと言うのか。そんな想像をする。調べる価値がありそうだ。

 図:川崎市市民ミュージアム所蔵『化物絵巻』より