古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#049 胴面 どうのつら

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胴面

 胴体に顔がある、名前もそのままの妖怪。先に登場した「五体面」と違い、顔から手足が生えているのではなく胴体と思しき個所に顔がある。もちろん首から上、頭はついていない。

 イメージそのものはかなり古い。紀元前5世紀成立のヘロドトスの「歴史」には「アケパロイ」という名の首なし族が古代リビアに棲んでいたと紹介されている。また1世紀に製作されたプリニウスの「博物誌」という本には、古代エジプトに棲んでいた一種族として「ブレムミュアエ」という名で登場している。絵姿にも多数登場し「ニュンベルク年代記」「東方旅行記」「マッパ・ムンディ」「山海経」などにその姿が認められるようだ。面白いのはこれらは殆ど「無頭人」という扱いで「胴に顔があること」が重要視されていないかのようだ。ちなみに図版は多いのに、この人類について説明をしている書物は無いようだ。

 恐らく江戸時代にはこれらの書物の中のどれかが日本にも伝わり、絵師の目にも留まったのだろう。「こんなものがいるという」というだけの情報が、逆にいろいろな想像をかきたてる妖怪だ。

 左下に描いたのは、胴体に顔こそなかったが、胴体だけで生きることのできた「首無し鶏マイク」である。食べるために首を切り落とされたが脳幹と耳が胴体に残っていたために死なず、生きているかのように歩き回った。驚いた周囲の人々の手によってそのまま生かされ続けた。餌を食道に流し込んでもらう以外は普通の鶏のようにふるまい、その後事故で死ぬまでの18か月間で人気者になった鶏である。1945年から1947年のことだ。ちょっと怖いご本人の写真もたくさん残っている。ギネスに記録も残っている。誰も更新させようなどと考えないことを願う。

 上に風鈴を描いたのは、描いた季節が夏だった事と、どこかで日本の文化を一緒に描きこんでいこうと考えた事と、横溝正史作「金田一耕助シリーズ」最終話「病院坂の頸括りの家」の中で、切り離した生首を風鈴に見立てるプロットを思い出した事と…要するに、何を描くか決まらなかったのだ。

 どうしても、胴に顔があるというより「首がない」方に目が行ってしまうという点では、ユニークな妖怪である。

 図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より