古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#052 赤がしら

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赤がしら

 炎のような赤い頭髪を持った姿で描かれた妖怪。目と鼻の間に垂れている、二股になった舌のような部品が何を表しているのかがよくわからない。肌は黒く、長い腕、しわだらけの胴体、ひざの無い足と異様な姿に描かれている。そして不気味に笑っている。ここまで特徴が多いと意味を考えたくなるものだ。いや意味を「与えたく」なるといった方が率直で正確な感情だ。

 赤頭とは能楽や歌舞伎で使うかつらの一つで、赤毛で長く、獅子や猩々を演じる際に使用する。歌舞伎で有名なのは、白頭を付けた親獅子(の精)と、赤頭の子獅子(の精)が舞う「連獅子」である。赤というのは老いを象徴する白の対となり若さを象徴する色なのだとか。(ただし、連獅子の初演は1861年なので、妖怪絵巻の時代にはまだ上演されていないと思う)ちなみに、ラグビーワールドカップ2019年の公式マスコットでも同じ設定で使用されていた。

 また、陰陽五行説によると赤は六道輪廻の中で餓鬼道を表す色でもある。絵のイメージにはこちらのほうが近い。

 私にはこの妖怪は、隣に描かれている「白子ぞう」とセットになっているように思われる。大きな「赤がしら」が、気の弱そうな「白子ぞう」にちょっかいを出しているようにも見受けられる。時代が平和になると世の中に対する不満に頭を燃やす若者が大きな顔をし町で暴れるが、止める術のない年寄りは巻き込まれないように目を反らすことしかできない。そういう不条理を描いてみたかったのではないか。

 背景に現代的なものを描いたのは初めて。今の若者(の一部)は自己主張に対する欲求不満を解消しようと、他人の所有する壁に絵をプリントしたり、集団で集まって国家権力に爆発物を投げたりする。そんなイメージを描いた。

 火炎瓶のラベルは唐獅子につなげて「牡丹マーク」である。勝手にデザインした。

 図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より