古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#053 白子ぞう

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白子ぞう

 ふつうは描かない。先に紹介した『百怪図鑑』の「しょうけら」の焼き直しだとわかっているから。そんな妖怪は実は結構いる。「目一つ坊」と「横目五郎」、「おとろし」と「毛一杯」、「髪切り」と「天狗の裸子」等など。どうしても「描く側」としては同じような絵を二枚も描きたくはない。いくら名前が違っていても。

 この妖怪は描くことにした。理由は先の「赤がしら」と対になって書かれることで新たな名前と性格を与えられた妖怪だと感じたからだ。「赤がしら」が荒ぶる若さの象徴であるなら、この「白子ぞう」は若者の暴走に対して、なす術もなく肩を落とす年長者のふがいなさを笑った妖怪であるのではないか。

 ちょっかいを出して笑っている「赤がしら」に対して、この「白子ぞう」は目を伏せ肩を落とし一歩後ずさっている。この妖怪の役割は、自分の名前に「白」の一字を付けて、「赤」がしら、と表裏一体の関係となっていることと「赤がしらに対する弱さ」を前面に出すこと、この二つである。

 背景には夕日(これから沈んでいく)、雪の積もる山(雪を白髪の隠喩にするのは古典文学の常識)と笈(おい=老い)を描き加えた。

 逆の考え方も存在する。「赤」「かしら=ボス」と「白」「こぞう=見習い」という純粋な「ボスと子分の関係」がそのまま妖怪に転嫁されたのかもしれない。その方がシンプルなものの見方だ。どちらにせよこの二体の妖怪がセットで描かれているのは間違いないのではないかと思う。

 図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より