古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#055 金槌坊 かなづちぼう

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金槌坊

 絵姿と名前は一致している。「坊主」ではないが、ここでの坊は坊主を指すものではあるまい。「金槌なやつ」というほどの意味か。しかし顔が鳥なのは何故だろう。ひょっとすると天狗の類かもしれない。山に棲む天狗は猛禽類の顔に描かれることが多いうえに「〇〇坊」という名乗りを持っているものも多い。ちなみに天狗とは増上慢となった僧侶が成るものだという、伝説なのか風刺なのかがわからない説がある。そこに金槌というキーワードが加えられたわけだ。

 頭でっかち(頭で小難しく考えるくせに行動力に欠ける)でカチカチの石頭(他者の考えを許容しない)。自分の力に天狗になりすぎて世の中の流れに柔軟に対応できず、そんな己の正当化のために新しいモノを破壊する衝動にかられる、そんな因循姑息の知識人達を揶揄した妖怪だろうか。時代は黒船到来直前。世の中の価値基準は大変な勢いで変わりつつあった。上記のような「時代に順応できない金槌頭の知識人」は、開化の波にのまれると、まるで金槌のごとく、人の海に沈んで二度と浮き上がってこなかった。

 モグラを描いたのはあまりにも安易な連想だった気がする。これしきの発想力では天狗になる心配はせずに済みそうだ。我ながら情けない。

 図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より