古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#056 べくわ太郎 べかたろう

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べくわ太郎

 何かの図録で初めて見た時から、その異様な絵姿にすっかり心を奪われてしまった。金太郎に成りそこなった様な容姿の妖怪。頭のてっぺんを剃り、おそらく「大童」にした頭、醜怪なべっかんこう(あかんべえ)でっぷりと突き出した腹。大きな舌と長い下あご。妖怪にしかなれない姿だ。

 名前の由来にもなっている「べかこ」、「べかっこう」「べっかんこう」つまり「あかんべえ」は、相手への拒絶、軽蔑を伝えるしぐさである。一方、大童という髪型は、武士などが髷を結っていないざんばら髪、おかっぱ頭のこと。資料不足ではっきりしたことはわからないが、主に成人した武士が子供の様な髪形をするから「大童」と呼ぶらしい。だから大人もしていた髪型らしい。江戸後期の子供の髪型はかなりバラエティーに富んでいて、けしぼうず、とんぼ、はち、あぶ、などの名称は確認できたが、どんな髪型かは資料がそろわない。ただ、剃るときはもっと髪の毛を剃ってしまうようなので、この妖怪と一致する髪型は見つけにくい。

 大人なんだけど心はまだ子供で、家に引きこもり、不摂生にものを食べて太り、世間にはあざけりの目を向ける。口を開けば自身の正当化のための社会批判と侮蔑の言葉がこぼれ出る。周りから見ると不気味で仕方がない。今でいうところの「ニート」や「ネットの世界の人」は、環境こそ違えども昔から存在していて、そういった変人を妖怪にして風刺したものだろうか。以前にも同じことを描いたような気がする。私の発想が貧困なだけなのか。それとも、ネット社会には妖怪が多数生き残っているのか。

 「オニユリ」の花ことばは、「侮蔑・軽蔑」である。

 図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より