古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#098 神獣 しんじゅう

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神獣

 南方の山中に棲む巨大な昆虫で朝に三千夕べに三千の諸々の虎鬼を食すという。(しかし、それが毎日続いても居なくならないくらいに世の鬼の数が多いのだろうか)元の絵は「辟邪図」と言って中国の民間信仰でいうところの邪鬼を退治する神々の図の一つなのだが、この絵からは神々しさではなく毒を以て毒を制する感を強く受ける。確かにこの迫力、鬼もしっかり食べてくれそうだが食べ終えた後黙って帰ってくれるとも思わない。本当に人間は食べないのだろうか。

 この絵には個人的なミステリーがある。1987年に平凡社から出版された「別冊太陽 日本の妖怪」という書籍で紹介されている「神虫」の図(白黒写真)では神虫の両の目玉がこすり落とされていて無い。本文でもその点には言及されており、「あまりの不気味さにおそれおののいた大人がおすり落とした」と分析している。

 しかし、2016年に東京と大阪で開催された「大妖怪展」に展示された「神虫」には、しっかりと目玉が描かれていた。新しく描き足した感はなく自然な古さである。そして「別冊太陽」と「大妖怪展」の両方の絵は、目玉のあるなし以外は、構図、墨の濃淡どれをとっても「同一の図版」としか思われない。いや、同じ絵だと思っている。意図的に描かれた完全な模写(むしろ複写)でなければ、あんなに細部までは一致しない気がする。これはどういうことなのだろうか。

 「大妖怪展」のほうは「辟邪絵」と紹介され「鐘馗」の絵と対になっている。奈良国立博物館の所蔵だ。「別冊太陽」のほうは、益田家本となっていて「地獄草子」の独立した一方という扱い。ということは、私のカン違い、やはり別物なのだろうか。。。二つ並べて眺めてみたいものだ。

 図:『地獄草子』益田家本乙巻 一巻より または『辟邪絵 鐘馗・神虫』より