後頭部にも大きな口がある女性の怪。中でも「食わず女房」は山姥の類とされる。山姥すべてに後頭部の口があるわけではないから「二口山姥」とか言いそうなものだが、私は知らない。「女房」と言うくらいだから山姥なのに比較的若い(と言っても年増くらい?)ので、「二口女で良いじゃないか」となったのかも知れない。
「食わず女房」は「頭に口さえなかったら」ただのご飯泥棒の話だ。
「飯を食わない女房が欲しい」と、現代なら誤解を招きそうな発言をする男の所に「俺は飯を食わねえ」と言う女がやってきた。
村人たちは、そんな奴はいねぇ、と忠告したに違いないが、男は深く考えずに女を女房にする。
確かに男の前では一切食べない。しかし男は気付く。男が仕事に出る度に、米の蓄えが恐ろしい勢いで減る事に…。
仕事に行く振りをして屋根裏に潜み、見張る男。彼を驚かせたのは盗み食いの事実ではなく、一度に食べる量でもなく、彼女が食事の際に髪をほどき、その中に隠していた、後頭部の巨大な口を使うことだった。
後頭部が飯を頬張るために床に向き、代わり女房の顔が天井に向き、目が合った。
そんな話だ。
別の話では、疎ましがっていた継子を死なせてしまった母親が、事故で頭を割ってしまう。その傷口が口のようになり、モノを食い出し、最後にはしゃべるのだ。
「あやまれ、あやまれ」
こちらは「頭脳唇」と呼ばれている怪談だ。
「食わず女房」を絵にした。
二口女問題、と言うべきものがあり、「後の口を描くと、正面の顔が描けない」と言う障害が、絵描きの前に立ちはだかる。それを解決するデザインを思い付いた。
服の模様は「アケビ紋様」自分でデザインした。アケビの実が口のようだから、連想だ。
足元の植物は、ヨモギ。山姥の苦手な薬草らしい。先の男は、正体を出した女房に連れていかれそうになるが、ヨモギの藪に逃げ込み、難を逃れたと言う。