古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

116 #チクリ

昭和時代の「妖怪尽くし絵巻」に描かれた妖怪。芸者の首にサソリの体を持つ。作者の解説はないが、非常に寓意性に富んだデザインである。

全然関係は無いが、「さそり座の女」と言う歌があった。女性の、惚れた男に対する執念のような感情を歌にしたものだが、歌っていた美川憲一はまだ元気だろうか。調べると現在76歳らしい。

チクリ、とは。まずは擬態語。先の鋭いものが皮膚に浅く刺さるときの感触を言葉にしたものであり、そこから転じて批判や皮肉など、聞くものに軽い精神的ダメージを与える発言をする際にも用いられる。なお、女性からのチクリは男性には発した本人が思う以上にこたえる。

以上の意味からの派生として、告げ口することを「チクる」と言う。私の故郷の関西の田舎言葉かと思ったらそうではなく、全国枠の表現だったのは以外だった。普段から何でも先生や親に告げ口する人物のことを「チクリ」と呼んだ。

以上より、チクリ、とは人のうなじの辺りに張り付いていて、耳元であれこれ告げ口をする小さな妖怪なのだろう。秘密の共有による特別感で人を酔わせるところは芸者のようだ、と言う寓意だろうか。

絵の話。刺を増やしてより「チクチク」させた。両脇の果実はサポディラ。熱帯の果物だ。此木の樹液はかつてはチューインガムの材料に使われていた。素材の名をチクルと言う。駄洒落である。あと「チク○」をぽろりさせたのも駄洒落である。妖怪で遊んでいる。江戸人のように。真面目に追求する気概がない。こういう事をしているから、日が当たらないのだろうが。

世間からの無言のチクリが私を襲う。