八百屋お七は実在の女性である。
江戸本郷の八百屋の娘。恋心を抱いた相手との再会を夢見て、放火事件を起こし火刑に処されたとか。後に井原西鶴の『好色五人女』の作中で紹介され、有名になった。
「飛縁魔」は仏教用語、女の色香で身を滅ぼす愚かさを諭す言葉とか。美しい女性でありながら内面は凶悪で、迷わされた男は命を失う。中国の妲己や褒姒といった王の妃たちが、飛縁魔だったとか。
ひのえんま、は「火の閻魔(裁判長)」であり、「飛ぶ魔縁」でもあり、天魔やマーラを意識される。また丙午(ひのえうま)生まれの八百屋お七が天和の大火を起こしたことから、「飛び火からの大火事、「飛炎魔」と言う話もある。
話は全然変わるが、ロイコクロリディウムと言う、インパクトの大きい寄生虫が居る。 カタツムリの触角に寄生して(触角はパンパンに腫れ上がる)イモムシのように動き回り、脳も支配されたカタツムリは、高い場所、目立つ場所に這っていく。鳥がこれを見つけて捕食すると鳥の体内で産卵、卵は糞と共に外界へ出され、その糞をカタツムリが取り込んで…。と、いうサイクルで生きている。
錦絵に描かれた八百屋お七は、梯子に登り、自らが起こした火災を眺めている。気になる男に見つけて欲しくて、八百屋の身分で手に入る、一番良い着物を来て…親の持ち物を借用したかも知れない(錦絵の服は、歌舞伎を意識してか、豪華すぎるように思う)…街に飛び出し、なるべく人目につくように火事現場に居たのではないだろうか。今で言うところの「白馬の騎士」が自分を連れ去ってくれることを夢見て…。そのイメージが、鳥に連れ去られる為に、派手な姿で目立つ行動をする、レイコクロリディウムと重なった。
思うにひのえんま、とは、悪意の怪というより、異性に執着する人の性、本能のようなモノではなかったか。本能が理性に勝るとき、人は無表情になるように思う。だから表情は抑えた。