古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#094 鵺 ぬえ

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 たった一回出現しただけなのに、日本で知らない人がいないのではないかと言うくらい有名になっている妖怪。一方退治した人物が源頼政だと云うのは鵺を知る人の何割が知っているだろうか(私もメモを見ながら書いた)。基本的には英雄伝説を作るための妖怪だったが、大失敗をした。つまり、妖怪の方だけが有名になってしまったのである。

 容姿、姿について言いたいことがある。自分で描いておいてなんだが、こんな姿ではなかったと思われる。特に古語では助詞の「の」は比喩の意味で使われることも多い(実は現代でも使う。「地獄の特訓」とは地獄の「ような」特訓のことだ。「神様のサービス」は死んだ後に受けるサービスではない)。だから「猿の頭、虎の手足、蛇の尾を持ち、鵺の声で鳴く」と言うような表現の場合、本当の意味は「よく説明できないが強いて言うなら猿のような頭、虎のような手足、蛇のような尻尾(頭は付いていなくていいのだ)、さらに鵺のような声で鳴く」妖怪と言う事になる。昔は比喩で「ヌエ的人物」と言ったりしたが、「正体をとらえることが難しい人物」のことで、やはり「はっきりしない姿の」妖怪なのだ。もっとぼんやりした姿なのだ。

 ちなみに鵺と言うのも「夜中や夜明けに寂しげな声で鳴く鳥」のことで、一般的にはトラツグミのこととされる。「その声で鳴いていた」というだけのことで、この妖怪の固有名詞も「鵺」ではなかった可能性がある。だからか、江戸時代のカルタでも「鵺の化物」と言われていたりする。

 西洋にキメラと言う怪物がいて、これもいろんな動物を組み合わせたデザインなので、鵺は日本のキメラだ、と言っていた人が居たが、本質的に違うと信じたい。キメラ、またはキマイラの方は、比喩ではなく本当にあの姿である。成り立ちが違う。

 この絵だけ雰囲気がアップリケみたいなのは、まさに妖怪「鵺」の有り様からつぎはぎのアップリケを連想したことと、「縫え」の洒落で…

 図:歌川芳員画『源頼政鵺退治之図 丁七唱』より。