古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#095 雷獣

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雷獣

 連作中唯一の縦構図であるため、表示サイズをそろえてアップできなかった。

 カミナリの落下とともに駆け下りてくる獣(と言うか蟹?)が雷獣である。落雷した木などに大きな爪痕を残すという。なるほど破壊力がありそうな爪を持って描かれている。普段は山の穴から空を窺い、夕立雲を見つけると飛び移るのだという。

 姿形は様々に言い伝えられている。あまり大きな獣ではないらしい。音や光を出すという設定はないようなので、あくまでも雷の「爪痕」の妖怪なのだろう。

 今回採用した図は、1801年(享和元年)広島県広島市佐伯区(芸州広島五日市村)に落下した雷獣の図で、大変な雷雨の際に塩釜付近に落ちたという。図版には「享和元年五月十日 芸州ニテ塩釜落入死 雷獣図」とある。死体で発見されたらしい。ロズウェル事件のような出来事である。しかし、落ちてきて死んでしまったのであれば、雷獣ではなかったのではないかと言う気もするが。

 この事件に関しては、同じ事件を書き写したのであろう図版が大量に出回っている(時代的には珍しいことではない)ので、当時は結構な話題になったものだと思われる。アメリカの場合と違い、役人がやってきてすべてを覆い隠したという話は聞かない。まあアメリカのロズウェルで円盤の残骸と宇宙人の遺体が発見された、とされるのは、ここから146年も後のことだ。ちなみに我が国は松平定信が改革に失敗した直後。宇宙人なんて発想もない。因みにこの事件の二年後、常陸の国にまるでUFOのような「虚舟 うつろぶね」が流れ着き、やはり話題となる。

 世界で初めて宇宙人と接触を持ったのは、実は日本だったのかもしれない。

図:江戸時代『雷獣絵図』平岡より。