古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#068 汐吹 しおふき

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汐吹

 ここからは、家国内有数の妖怪資料の収集家、湯本豪一氏が所有する「化物づくし」から妖怪を紹介する。描かれた妖怪はすべて創作(そもそも妖怪はその全てが創作かもしれないが、過去に類似の妖怪が全くいない)で、しかもかなり風刺と諧謔が利いているように思われるが…その解釈は難解を極める。正直どれをとっても全然わからない。もっとも、それならそれで彼らがどんな妖怪かを考える楽しみが生まれるので、知識を総動員してそれらしい解釈を作り上げたい気持ちも生まれる

   そういう経緯で、ここからは(今までもそうだったかも知れないが…)素知らぬ顔でどんどん自分でも責任の持てない事を書くので、真に受けるか受けないかは、各人にお任せをしたい。

 名前から見ても姿から見ても汐を噴いている。潮を吹くと言ったらクジラしか思いつかない。クジラのことを妖怪に見立てたのだろうか。海にはクジラのような妖怪が多い、各種の海坊主、ザトウクジラとしか思えない海座頭、そしてこの汐吹、それぞれにクジラの違った一面を切り取っている。

 目隠しをした3人に象をさわらせる。鼻を触った一人は「これは蛇の様な生き物です」と言う。腹を触った一人は「壁の様な生き物です」と言う。足を触った一人は「丸太のような生きものだった…」

 妖怪の生成過程の一つに、「一人二役」があるのは確かだ。人類が無知であるゆえに、クジラがまだクジラでなかったころ、鯨の起こす数々の行動が、別々に取り沙汰され、一匹の生物の仕業であるとは思われていなかったころに、この妖怪は誕生したのだろう。または、そのような狭い視野を馬鹿にする妖怪なのかもしれない。

  または、盛大な潮が上がるのに鯨がきたと思って駆けつけると何も居ない、そんな妖怪か。

 どういうわけだか、妖怪以外の要素がとてもさわやかな絵になった。

 図:湯本豪一蔵『化物尽くし』より