古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#067 土ぐも

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土ぐも

 大昔は朝廷に従わない一族の、古文書上での呼び名であった。妖怪としての「土蜘蛛」は鎌倉以降の様々な絵巻物ないし書物に様々な姿で伝えられている上、どの物語をとっても簡単に退治されないという強力妖怪の筆頭だ。古来の伝説もあるのだろうが、創作された物語の中で多く活躍(または暗躍)する。様々な姿で描かれているといったが多くは鎌倉時代の「土蜘蛛草子」を元にした大きなキリギリスのような姿と、百怪図鑑で絵かがれている牛鬼のような姿であろう。本作の姿で描かれているものは、「化物之繪」以外に恐らくないだろう。大変二次元的で、バランスの悪い姿であったため、それぞれのパーツの形は大体そのままに位置を描き直した。

 人物などに姿を変える事もできるが、一番の能力は糸を使ってほかの妖怪達を何匹でも意のままに操る能力だ。時代が進むにつれこの能力が創作物の中で大活躍することになる。「陰で糸を操る」などはこの妖怪から生まれた慣用表現ではないだろうか。

 創作された怪物の常なのだが、この妖怪は特に「英雄に倒される事によってその英雄の武勲を高める」妖怪となってしまった。西洋でいうところの「ドラゴン」と同じような存在で、伝説では源頼光神武天皇などに退治されている。やはり「蜘蛛」だからなのか主役になった物語もないし戦いに勝った物語もない。強いのに、いや強いがゆえに勝つことない永遠の敵役となってしまったのだ。

  図:ブリガム・ヤング大学付属ハルド・B・リー図書館蔵「化物之繪」より。