祠なども建っていて信仰の対象にもなっている妖怪神とでも言うべき存在。なきびす、とは泣き虫の意味。正式名は「泣きえびす」だが、地元の人はなきびす様と呼ぶ。
伝説もある。長崎は佐世保の話である。
広田城が攻められいざ落城という時、城兵の妻が子供を連れて城を抜け出した。金田川付近で敵兵に見つかりそうになり竹藪に身を潜めたが、子供が泣き出し親子共々殺されてしまった。戦の後、二人に不憫を感じた土地の人間が供養のために祠を建てた。以来夜泣きを直す祈願所として人々の信仰を集めている。
諺に「雉も鳴かずば撃たれまい」とあるが、それを体現したような伝説である。それにしても泣き顔がひどい。子供には見えないので、母親が泣いている顔なのだろうが、複数ある妖怪絵巻のどの「なきびす様」を見ても女性に見えない。伝説では、泣いたのは子供の筈なのに、なぜ母親の方を泣かせるのかも不明。生きているうちには泣ききれなかった悲しみを、死後に晴らそうと泣き続けているのか。
本当に夜泣きを止めてくれるのかな。
日本の信仰にありがちな傾向で、ネガティブな事件の犠牲者をポジティブな神様に仕立て上げることで、将来に負の気を残すまいとしている節がある。怨霊菅原道真を学問の神様にするような動きだ。死者を英雄視するのも同じような集団心理だろう。犠牲者からすれば、遅すぎた償いだ。しかし残された側は、気まずい、後ろめたい気持ちを将来に引っ張るよりよほど建設的と思われるだろう。
祠には悪戯しないほうが賢明だ。
図:ブリガム・ヤング大学付属ハルド・B・リー図書館蔵「化物之繪」より。