古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#040 五体面

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五体面

 顔から手足が生えた姿で描かれた妖怪。「面」から「五体」が生えているから「五体面」と言うのだろうか。でも頭がないから四体面なのではないのか。

 「〇〇に手足が生えたような」という言い方がある。一つの物事に一辺倒な性質を意地悪く言った言い方である。この妖怪は「顔に手足が生えて」いるため、顔にだけ気持ちが行っている性格と言う事になる。と言ってもここでの顔とはイケメンだとか、そういう意味での顔ではない。不細工とまではいかないが、うっとりする顔には描かれていない。「顔」とは、「顔をつぶす」とか「面子にかかわる」というときの「外面」を示す方の「顔」である。そうそう「体面」ともいう。その名の通りだ。

 体面(≒世間体)を気にするあまり、ついに全身が顔になった一方で頭を無くしてしまった妖怪、と言う事だろうか。大きくしすぎた顔に泥や疵がつかないようにバランスをとりながら歩いているようだ(ちなみにこの絵では、顔がひっくり返ってもまた顔になり、取り合えず体面が保てるようにしてある)。周りから見ればその行動には妖怪にしたいくらいの違和感があるのだが、当の本人はうまく体面を保っていると思い込んで満足している。

 顔から手足が生えていると言えば頭足類、つまり「タコ」を思い出す。この妖怪はタコではない。足が4本も足らないからだ。「足(金)も足らないのに体面を保とうとして全身でバランスをとっている」状態を示している。社交界という世界が日本にあるのかどうかは知らないが、そのような世界にいると錯覚し、外面だけを整えてなんとか自分のなかでのみプライドを保っているような妖怪。タコよりも分布範囲は広い。

図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より