古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#071 為何歟 なんじゃか

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為何歟

 『化物尽くし』の中でも、ひときわ謎の深い妖怪。元の絵では腹から上と脛から下は描かれていない。尻尾の生えた、どうも狸臭い人の体が描かれている。「なんじゃか」の意味を調べてみると「為何」が中国語で「なんで」という意味で、「歟」は反語や感嘆の意味を持つ助詞である。つまりその心を訳すと「なんでやねん」と言うほどの意味だと思う。

 絵としての突っ込みどころは満載である。「なんでやねん」と言うか「なんだこれ」である。唯一妖怪らしい部分は尻尾であるので、これを「尻尾の妖怪」としてみよう。体の上下が切られているのは、「描く必要がなかった」からで、「今描かれている部分だけで、十分に為何歟が表現されている」からだろうと考える。

 尻尾は面白い。隠していたことが暴かれることを「尻尾を出す」「尻尾をつかまれる」と言い、物事の核心という意味に取られることもあれば「トカゲの尻尾切り」のように犠牲にできる部分と取られることもある。本体の黒幕は奥に引っ込んでいて顔を出さないための「見せるしっぽ」なのだ。

 顔は出さない尻尾の妖怪だ。大変怪しい尻尾が出ているが本当の顔は決して出さない。そんな「怪しいんだけど…」そこから先が手繰れない、正体がわからない、そんな不発弾のような妖怪なのだろう。だから「なんでやねん」なのだろう。

 黒幕にかけて黒い幕、横の花はヒオウギ、秋になると「黒」にかかる枕詞「ぬばたまの」のぬばたまが実る。しっぽはより怪しくした。でも本体ではない。足を描いてしまったのは、蛇足かもしれない。

 図:湯本豪一蔵『化物尽くし』より