古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#072 有夜宇屋志 うやうやし

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有夜宇屋志

 頭を体の中にめり込ませるように、低く低く下げた姿で描かれた、乾いた馬糞のような妖怪。「うやうやし」の名前にふさわしい姿ではある。しかし名前の漢字「有夜宇屋志」何も全部違う字にしなくてもいいのに。

 「慇懃無礼」という言葉があるように、何の根拠もない恭しすぎる態度はかえって相手に不信感を与える。理由は恐らく、その態度の裏に潜む(たぶん)良くない企みの匂いを感じるからだろう。何の目的もなく相手に恭しくする人はいない。その理由がこちらに思い当たらない場合、向こうの側だけに理由があるのだ…。そんな不安が妖怪的雰囲気に通じる。

 もっとも、私の絵の「有夜宇屋志」は、お金に恭しくしているようだ。頭上に小判を掲げている。ちなみに「コバンイタダキ」またの名を「コバンザメ」は、大きな魚に貼りついて餌のおこぼれをもらう魚。まるでこの妖怪のようだ。両脇の植物はオジギソウ。葉を触るとお辞儀をするように自らを折り畳む植物だ。ただしこの植物にお辞儀をさせすぎるとストレスで枯れてしまうという。

 有夜宇屋志のほうは、そんなことはなさそうだ。むしろ無理に頭を上げさせるとストレスで死ぬかもしれない。ひれ伏す姿勢は大地を背後の盾にした防御の構え。上にだけ注意していれば良いので気持ちは楽である。恭しさが狡さに繋がるとするならば、そこがこの妖怪に気を許すことが出来ない理由だろう。

 図:湯本豪一蔵『化物尽くし』より