誰でも知っている妖怪だが、なかなか奥の深いことになっている。基本的には雪の精が女性の形をとって姿を現し、自然が起源の妖怪の常として、時には恩恵を授け、時には激しく祟る。雪の降る地方に多く伝説が残るのは、当たり前の話と言っていいと思う。呼び名も「雪女郎」「雪姉サ」「雪ばんば」「シッケンケン」など様々だ。
有名な伝説に「雪女が仕事仲間に息を吹きかけて凍らせて殺してしまうのを見た若い男の話」がある。雪女は彼を「まだ若い」と理由で見逃し、この事を誰にも話してはいけないと口止めして消えていく。男はしっかり約束を守る。ある雪の日、男は美しい女性と出会い、結婚し子供をもうける。しばらく月日が過ぎたある日男は妻となった女性にふと、雪の夜の話をしてしまう。実はその妻こそが在りし日の雪女で…という話だ。結末は伝承によって180度違っている。
この話には意外とオリジナルな部分が少ない。息を吹きかけて命を奪う山の怪と言えば、「山爺乳」という獣がいる。「黒坊主」も似た様な悪さをするし、中国には「一目五先生」というユニークな妖怪がいて。やはり息を吸い取って人の命を奪う。また、結婚した妻が実はかつて出会った妖怪だったという筋は、西洋の妖精物語にも存在する。
そもそもこの話は、日本を愛したギリシア人小泉八雲が収集し、出版したことで有名になった話だが、彼は身近な人間からこの話を聞き、その人は奥多摩でこの話を聞いたという。柚木に伝わる話で、本来「柚木女ゆぎおんな」だったものが「雪女ゆきおんな」に変わってしまった、という調査をした妖怪研究家がいる。私はこの説をとても好んでいる。
雪女は美人だということだが、妖怪図鑑の顔にこだわった。(幽霊は完全無視で描いてしまったが)もとの絵をくさしているわけではない。あらためて見ると、もとのほうが顔が整っている。周りに描いてあるのは「雪紋」である。決して王冠のようなウイルスではない。
図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より