古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#026 ふらり火

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ふらり火

 これもまた、ビジュアルと名前以外の情報も、伝承も説明もない妖怪。周りに様々な鳥を従えて飛ぶというのは、もちろん後付けの設定だ。

 火の妖怪であることには疑問はない。火の妖怪はどれも似たり寄ったりで、見た目は火の玉である。そこで出現する地方や伝説ごとに別の妖怪とされて新たな名称がついてしまうが、そんな中で一目でこれとわかる外観を持っている。ちなみに外観だけでそれとわかる火の妖怪はふらり火だけでなく、他にも「老人の火」「姥が火」「つるべ火」「くらべ火」「油坊」などがある。

 ふらり火は、獅子のような顔面を持つ鶴のような鳥が、後光のように背中から火を噴き出して浮遊する姿で描かれる。と書けば非常に聞こえはいいのだが、この獅子のような顔の気の抜けっぷりが凄い。赤塚不二夫の漫画に出そうな顔に描かれている。恐ろしさはみじんもない。名前もふらりとしているので、この妖怪の性格を説明しているのだと思う。

 気の抜けた顔はさておき、首から下は鶴のようだ。そういえば「青鷺の火」という怪異(青鷺やゴイサギが青白い燐光を放つ怪異)があったが、それと似ていなくもないが、同じものとは言い難い。せめて首から下がもっと小さい千鳥の類であれば、「千鳥足」と絡めて描くこともできるが、鶴ではそうもいかない。

 かなり上空を飛ぶのではないか。そこそこの大きな鳥がふらふら飛ぶように見えるとすれば、地上すれすれではないだろう。恐らく地上から見上げて、光を発して飛ぶ鳥のようなものがジグザグな軌跡を残して飛ぶのを見た出来事がもとになっているのではないか。多分顔など見えていないに違いない。と思ったりもする。今、同じような現象が起きたなら、人はこれをUFOと言うのではないだろうか。

図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より