妖怪だと言われなければ豆腐を持ったただの子供だ。幕末から明治時代にかけて「キャラクター」として愛され、錦絵、凧の絵、双六などの玩具のイラストや、狂歌や川柳、読み物などの題材として活躍した。
さげてゆく おかべの雨の ふりかへり にらむ眼は 丸盆のごと (狂歌百鬼夜狂より) 江戸時代にはこのような「化物を題材にした狂歌や川柳」が多数作られ、出版もされた。暇になったら研究してみたい。
特に古くより伝わる伝承や、自然発生的な噂はない。
読み物においても特殊能力などは持たず、人間にも相手にされず軟弱な妖怪として仲間にいじめられる。その一方で父は妖怪の総大将「神輿入道」母は「轆轤首」と言う設定もある。お金持ちで弱虫のボンボンである、と言う設定もある。角はあるのにすぐ崩れる、頭でっかちな色白のお坊ちゃんはいつの世にもいそうである。威張っているつもりが、馬鹿にされからかわれている。また、妖怪の小間使いで、豆腐は誰かに届けるものであるという設定もある。
子供時代の妖怪図鑑で紹介されていた「持っている豆腐を人に食べさせ、食べると全身にカビが生えてしまったという」という衝撃的な能力は、おそらく落語の「ちりとてちん」「酢豆腐」などを念頭に置いているのだと思うが、人気者の弱虫妖怪はいつしかテロリストのような妖怪に変貌してしまった。
図:竜斎閑人正澄画『狂歌百物語』より