後頭部に目を持った僧形の後ろ姿に、鈎爪が一本だけついた腕のようなものが描かれた妖怪。正面に目や顔があるのかないのかは元の絵では不明である。
妖怪のイメージは湧きやすい。背後というのは人間の絶対的な死角であり、相手の背後に位置をとる限りその人間は安心感を得ることができる。加害者にはなっても被害者にはならない安心感とでも言おうか。そんな時、後頭部から自分をじっと見つめる一つ目に気づいたら…というような怪異を想像する。
自分の背後や死角になっている場所で起こる物事について、見ていないはずなのに正確に察知している人が居る。そういう人のことを「背中に目がついている」などと表現することがある。そうした不思議さ、不気味さを妖怪としたものだろうか。
元の絵のデザインからかなり遠ざかった。アイデアがわいていろいろ描き加えた。手が一本だけだとどうしても絵が寂しくなるので、三本足した。オリジナルの一本は元の絵に近いポーズをとらせ、残り三本には別々の仕事をさせた。「後ろの正面だあれ?」という歌詞を連想して「かごめ=籠の中の鳥」を描いた。見えない正面のほうにも顔があることにした。(判りやすいように晩酌をさせておいた。)手の前後関係を整理するために絵に立体感を持たせようとして手前にろうそくを配置した。結果、だいぶ原典から離れてしまったのでやや後ろめたい。「うしろめ」だけに。
図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より