古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#060 窮奇 かまいたち

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窮奇

 有名な妖怪。下手をしたら妖怪を何も知らなくてもかまいたちの名前だけは知っている人も多いのではないか。

 風が強いなと思っていると皮膚が裂けている。痛みを伴わないので気付かずにいると、おびただしい出血でそれと気付く…そういう怪異を指しているらしい。子供のころの本では「空気中の小さな竜巻が真空状態を生み皮膚が裂ける」という説明を真に受けていたが、これは全然科学的でもなく、証明されているわけでもなかったことを後になって知った。「トンデモ科学」などと言う言葉もなかったころの話である。未だにかまいたち現象の原因は不明であるが、最近は「遭遇した」という話もまったく聞こえなくなった。

 東北から北海道にまで伝説が伝わっているようだ。姿を見せるわけではないので鼬の姿は後付けだ。元々は東北あたりで「構い太刀」の字を当てていたとも聞く。三人の神様が一組で活動するという話もある。北海道なら「神威太刀」といった字を当てるのだろうか。

 「かまいたち」の音が江戸にたどり着いた時には、その音から「鎌鼬」の当て字がついていた。そして絵のようなイメージが定着したのが元禄時代ごろである。その時には先にも紹介したが、中国の同類の妖怪の字を当てて、「窮奇」で「かまいたち」と読ませるようになった。

 もっとも、中国の「窮奇」は、風と関係があること以外には何も鎌鼬との共通点が無いように思われる。「ハリネズミの毛が生えた牛で、犬のように鳴き、人を食べる」とか「翼をもった虎で、人を食べる」とか伝えられる。鎌も持たなきゃあ鼬でもない。この二つを最初に結びつけたのは誰なんだろう。

 図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より