古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#059 海座頭 うみざとう

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海座頭

 海坊主の類か。座頭のような姿で波の上に姿を現す様が、鳥山石燕の「画図百鬼夜行」にも描かれている。

 ザトウクジラ、というクジラがいる。標準的な個体では体長約13mと中型だが、南半球では最大級で体長19mほどのものもいる。全長の3分の1に達する大きな胸ビレと上下の顎にあるフジツボに覆われた瘤状の隆起が特徴。興味深いのがその名前の由来で、背ビレと背中の瘤等をもつ癖のある姿が「琵琶を担いだ座頭」に似ているためとされる。ちなみに英語では背中の瘤からhumpback whale(せむしの鯨)と呼ばれる。

 ほとんど説明がついたようなものだ。海座頭はザトウクジラを「鯨じゃない」「怪物だ」と思った人がつけた名称であろう。目撃者の言葉「大きな座頭のような姿をしていたなあ」が独り歩きし、それが絵になったときに、おしゃれな服は着るわ、杖はつくわ、老人の顔があるわ…となったのだろう。海坊主の伝説のなかには、「体は漆のように黒く、上半身だけを海上に現す」と言ったものがあるが、これもクジラであろう。数ある伝説の中には「漁師に声をかける」物もあるが。それはそれ。妖怪の正体を考えるとき、「一人二役」や「二人一役」が意外と多いのではないかと感じている。

 図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より