古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#058 山あらし

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山あらし

 野生動物である本物の「ヤマアラシ」とは、似ているような似ていないような。どこかである程度は本物の情報も入っているような気がする。本物の姿を見た人間が言葉でそれを他人に伝え、その他人がまた別の他人に言葉で伝え、…と言う事が何度も続き、最終的にそれを誰かが絵にすると、こんな感じになる。かつて、「ゾウ」や「獅子」で起きたことが、「ヤマアラシ」でも起きたのだと想像する。そうしたらこのような姿になっていた。出来の悪いFAXのような仕掛けだ。

 伝説上の「ヤマアラシ」は、和歌山県に見出すことができる。やはりとげのある生き物で「シイ」とも呼ばれる。牛を追うときに「シイシイ」といって追い立てることがあるが「お前の後ろにシイがいるぞ」という意味である。

 本家ヤマアラシのほうは食欲が大変に旺盛な生き物だと聞いた。主に野生の木の皮や茎を大きな前歯でかじって食べる。たったひと冬で100本もの木が齧られたという記録があるそうだ。一匹のヤマアラシにである。そこから「ヤマアラシ」の和名は来ている。「山荒らし」なのだ。そのほか果物、木の葉、植物の芽、塩も食べる。キャンプ場に侵入し「汗が染みこんだタオル」まで齧ったという話がある。

 言葉や態度に含まれるとげで周囲に人を寄せ付けず、強欲で何でも根こそぎ手に入れてしまうという性質は、妖怪にはふさわしい。焼き畑農業による熱帯雨林の砂漠化を連想してしまう。そういえば砂漠にも全身とげだらけの植物がいるではないか。

 図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より