古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#029 猫股 ねこまた

f:id:youkaigakaMasuda:20200420235657j:plain

猫また

 しっぽが割れていないのである。最初に思ったことはそれだった。尻尾が又に分かれるから猫またというのかと思っていたが、少なくとも妖怪絵巻のそれは一本しかしっぱが描かれていなかった。化け猫のことを猫股とも言い、尾が分かれているかどうかは大きな問題ではないようである。

 吉田兼好の「徒然草」にも「ねこまた」の名前が出てくるのだが、その容姿についての説明は一切ない。もちろん尻尾についての記述もない。山奥に棲むという、これまた「猫股」のイメージとはやや異なる設定がついている。「目は猫のごとく、形は大きな犬のごとく」といった記録もあるようで、これでは猫の妖怪かどうかも怪しくなってくる。

 猫股が上の絵のようなイメージに近づいたのは江戸時代だろう。歌舞伎などで化け猫が喰い殺した人間に成り済ますとか、人の見ていないところで踊るなどと言う話が出始めて、化け猫が一気に文化的になったのだと思う。

 因みにこの妖怪絵巻が描かれた当時三味線は猫の皮を張って作っていたので、それを猫が持って演奏するという何とも皮肉なデザインとなっている。死なない猫=ねこまたと、楽器に「生まれ変わった猫」とを重ねているのだろうか。

 猫なので周囲にマタタビの木を描いた。

 図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より