古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

2020-04-01から1ヶ月間の記事一覧

#028 野狐

野狐 狐と狸では、その化かし方が根本から違うように思う。自身の肉体を術によって変形させ、実際に別の物に変身し、相手を化かしにかかるのが狸。それに対して、自分が化けるというよりも相手に術をかけ、幻覚を見せて化かすのが狐。だからこの絵も「狐が化…

#027 雪女

ゆき女 誰でも知っている妖怪だが、なかなか奥の深いことになっている。基本的には雪の精が女性の形をとって姿を現し、自然が起源の妖怪の常として、時には恩恵を授け、時には激しく祟る。雪の降る地方に多く伝説が残るのは、当たり前の話と言っていいと思う…

#026 ふらり火

ふらり火 これもまた、ビジュアルと名前以外の情報も、伝承も説明もない妖怪。周りに様々な鳥を従えて飛ぶというのは、もちろん後付けの設定だ。 火の妖怪であることには疑問はない。火の妖怪はどれも似たり寄ったりで、見た目は火の玉である。そこで出現す…

#025 幽霊

幽霊 「…幽霊は妖怪じゃない!」という思いはあるが、佐脇嵩之の『百怪図鑑』には載っているので紹介する。気付く人は気づいていると思うが、この「怪説」は今のところ「百怪図鑑」の妖怪をそこに描かれている順に描いていっている。さらに他の有名な妖怪絵…

#024 目一つ坊

目一つ坊 どこで聞いた話だったか。たぶん最近の妖怪の研究本なのだが、比叡山の僧がその死後も弟子の修業を見守るために一つ目の鬼となって僧坊を周った。特に居眠りを戒めた、という情報をもとに描いた。右上に描いたのは天井からつるす「魚板(ぎょばん)…

#023 牛鬼

うし鬼 西日本を中心に伝説として伝わっている妖怪だがその物語を聞く限り、または各地に残されている牛鬼祭りの山車や民芸品を確認する限り妖怪絵巻に描かれた形状とはかなり異なる妖怪であるように思われる。 伝説での姿は「ウシオニ」と聞いたら誰でも自…

#022 赤口

赤口 見ての通り、大きな赤い口が特徴の妖怪。このビジュアルを知っている人は多いと思うが、にもかかわらず伝承のある妖怪ではない。昔妖怪図鑑で読んだ「長い舌で水門を操作し村の水争いをたしなめた」という話は少なくとも昭和になってから結び付けられた…

#021 うわん

うわん 絵巻物に姿が残るだけで伝承はない妖怪。江戸時代に描かれた妖怪にはそのような性質のものがとても多い。戦後の妖怪本には「うわん、と大声で脅かす妖怪」「墓場に出る妖怪」のみならず「うわん、と言い返さないと棺桶の中に引き込まれる」など、なん…

#020 山わらわ

山童 やまわろ、のこと。山に出現する妖怪で、伝説は多くあり、河童と一部を共有している。夏は川にかいって河童となり、冬は山に入って山童になるというような、両者がほぼ同一のものとされている伝承もある。山で仕事をしている人のもとに現れ、重たい木を…

#019 ぬけ首

ぬけ首 まず初めに名前とのギャップに驚く。「首、抜けてないよ!」と思う。これはぬけ首ではなくてろくろ首ではないかと思う。ところが複数の妖怪絵巻で「ぬけ首」と表現されている。一方鳥山石燕の絵では「ろくろ首」が採用されている。 伸びている首の描…

#018 犬神

狗神 主に瀬戸内~九州地方でいうところの犬神と、妖怪絵巻などに描かれる犬神が、同じ妖怪とは思えない。四国九州のほうは「イヌガミ」とは名ばかりで、その姿も生態も殆ど犬を連想させない。強いて言えば「家に飼われている神様」といったところか。 妖怪…

#017 山姥

山姥 山奥に棲むという老婆の怪。野生の熊も顔負けの怪力を持っていたり、変身するなど妖術を使ったりと太刀打ちできる相手ではないので、正面から戦って人間が勝った話はないと思う。(お坊さんがうまく騙して小さくさせ、餅に引っ付けて食べてしまった話が…

#016 夢の精霊

夢の精霊 資料によって、「夢の精霊」「骨の精霊」と意見が分かれるが、幾つかの説話集から読み取れる情報から推察して、「夢の精霊」と解釈する。 有名な説話。滋賀県は琵琶湖でのお話。ある僧が、加茂神社の供物用に捕らえられた大きな鯉を不憫に思い、大…

#015 苧うに 

苧うに 苧うに、の「苧」は苧麻(からむし)のことと思う。イラクサ科の多年草で栽培もされ、茎の繊維を織物などにも用いる。苧は「を」の字を当てる。日本書紀からその存在が確認でき、日本人とは付き合いの長い植物である。江戸時代にはこの苧麻の専売権を…

#014 塗り仏

塗仏 そのビジュアルに人気があったのか、様々な妖怪絵巻に描かれている妖怪。鯰が化けそこなった仏のような姿で描かれる。色は黒く、目と舌を飛び出させ、狸ではなく魚のしっぽが描かれているものがある。「黒坊」と紹介する文献もあったような。 個人的な…

#013 山彦

山彦 山の頂上で、向こうの山に向かって「やっほー」などと言うと、向こうの山のから「やっほー」と返ってくるアレ(今でもそういうことをして遊ぶのかな)。鳥山石燕は自分の作品の中では「幽谷響」という字を当てている。むこうの山の頂上にいるこの妖怪が…

#012 おとろし

おとろし これもはっきりした伝承はない妖怪。名前の表記も、「おとろし」「おとろん」「おどろおどろ」など、いろんな解釈があり、定まらない。鳥山石燕が神社の鳥居の上にたたずむ姿で描いた事で、鳥居の上から落ちてきて不信心者を懲らしめる妖怪という設…

#011 はゐら わいら

わゐら 絵は残っている。有名な妖怪絵巻にも乗っている。鳥山石燕も描いている。しかし、伝承というものが全く見当たらない。「わいら」という音から連想するものもない。描かれたものに共通する点は、以下のようなものだ。 ・体の割には細い手に爪が一本。 …

#010 ぬっぺっぽう

ぬっぺっぽう 「目も鼻も口もない肉の塊のような妖怪」と、どの本にも書いているのに、どの本の挿絵にも胴体に顔っぽいものが書いてあるのは何故なんだ? という突っ込み必至の妖怪。オリジナルにせよ二次創作にせよ、まあ大体描いてある、顔に見える皴が。 …

#009 姑獲鳥 うぶめ

姑獲鳥 お産で死んだ女性の霊が妖怪になった、という点ではどの言い伝えも一致している。基本的にはそれが姑獲鳥である。そこからは様々な伝説があるようで、亡くなった子供を抱いているもの、鳴き声を出して歩き回っているもの、男性相手に子供を預け、その…

#008 火車

火車 生前悪いことをした人の葬式の最中に出現し、遺体を棺桶から奪って地獄へ直行するという鬼。彼が引っ張っているのが燃え盛る「火車」であり、鬼そのものは「タクシーの運転手」のようなものである。名前がついている話を聞いたことはない。 絵によって…

#007 ぬらりひょん

ぬらりひょん 「ぬうりひょん」が正しい表記だという話が一瞬上がって、幾つかの書籍ではそんな表記もされたものの、でも最近はやっぱり、「ぬらりひょん」でいいのだという。 妖怪の総大将だという最近ではだれでも知っている設定は、戦後誰かがそう言って…

#006 元興寺 がごぜ

元興寺 飛鳥時代、奈良の地にある元興寺に夜な夜な現れ、鐘楼に潜み、鐘をつきに来る童子を殺し続けた鬼。「雷神が農夫に命を助けられ、そのお礼に授けたという大力の童子」がこの鬼を退治し、その際に頭の皮をはぎ取ってしまった。残った血痕を辿った先には…

#005 河童

河童 元祖水妖。弥生時代に稲と一緒に日本にわたってきた時には、その立場は「水神」であり、機嫌を損ねると稲の収穫量だけではなく、村の運命にまで影響を与える存在だった。 やがて仏教が日本を席巻すると、古来の信仰の対象は格下の存在と見做されるよう…

#004 濡れ女

濡れ女 様々な絵巻物にその姿を確認できるが、実は「濡れ女」としての伝説は少ない。島根県の民話に牛鬼と一緒になって出てくる話があるが、そこでは赤子を抱いて出てくるので、上半身または全身が普通の女性であり、首から下が蛇であるイメージではないよう…

#003 ひょうすべ

ひょうすべ 佐賀県、宮崎県、熊本県などで山を中心に活動している河童の類。沢などを群れで渡るときに、ひょうひょうという鳴き声が聞こえてくる。描かれた姿は河童というより、頭部に毛が無いサルのように見える。 伝説の少ない妖怪の常として、後世のライ…

#002 しょうけら

しょうけら 鳥山石燕の「画図百鬼夜行」では、天井から家を覗く姿で描かれている。物語や伝説が残っている妖怪ではないが、庚申日に人の罪業を天に報告に行く体内の虫を鬼と見たものではないかという見方がある。ちなみに天帝(天界の帝)はこの虫の報告によ…

#001 見越入道

見越入道 見上げるほどに大きくなっていく、入道の姿をした妖怪。江戸時代には「妖怪の総大将」という役割を与えられ、イラスト、仮名本など当時の創作物に多く登場している。民間の伝承では狸が化けたもので、見上げすぎると喉笛をかまれるとか、大きくなっ…

#000 ナックラヴィー

ナックラビー スコットランドやケルトの民話に登場する怪物。海に棲み、不作、疫病などをもたらす。 伝説では、独特な外観が詳細に語られる。ケンタウロスのように馬のような体に大男の上半身が乗っている。豚のような鼻面と長く裂けた口、この口からは息が…