古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#005 河童

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河童

 元祖水妖。弥生時代に稲と一緒に日本にわたってきた時には、その立場は「水神」であり、機嫌を損ねると稲の収穫量だけではなく、村の運命にまで影響を与える存在だった。

   やがて仏教が日本を席巻すると、古来の信仰の対象は格下の存在と見做されるようになり、仏教の布教活動と共に急速な妖怪化が進んだ。
 最初のうちは陸上のものを川へ引き込む「恐ろしい魔物」という立場が与えられていたが、文明が進み、治水が完備し、水難事故による死者が少なくなってくると、その畏怖の気持ちも薄まり、僧侶をはじめとする人間に退治される話や、失敗する滑稽な話が多く作られた。その容姿に関する具体的な特徴が多く語られ出すのもこの頃であるようだ。見えない存在から目に見える存在へと変化した。双方向的なコミュニケーションが取れる対象へとなった。
 さらに時代が進むと、「隣人としての妖怪」の立場さえ失われ、ツチノコなどと同等の「未確認生物」となり、今ではすし屋や日本酒の看板「ゆるキャラ」だ。

   正に水のように姿を変えながら人々の隙間で生き続けるその生命力だけが、かつての「水の神様」の面目をかろうじて保っているようだ。

図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より