古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#004 濡れ女

f:id:youkaigakaMasuda:20200412075057j:plain

濡れ女

 様々な絵巻物にその姿を確認できるが、実は「濡れ女」としての伝説は少ない。島根県の民話に牛鬼と一緒になって出てくる話があるが、そこでは赤子を抱いて出てくるので、上半身または全身が普通の女性であり、首から下が蛇であるイメージではないようだ。
 ビジュアルから見れば「蛇女」だが「濡れ女」。沼、池、海といった湿地との連想を作り上げるネーミングである。故に、水中に潜む妖怪のように思える。日本には水棲の蛇などほとんど居ないので、制作者の意図を感じる。
 蛇は細長い。一般に細く長くといえば、年越しそばを食べる由来でもあるように、長命を意味する縁起のいい表現であるが、これが蛇女となるとどうだろう。細く長く途切れることのない蛇念ならぬ邪念…執念とはこのようなものをいうのだろう。確か葛飾北斎の浮世絵に、「しうねん」というのがあって、位牌に絡む蛇が描かれていた。
 つまるところ、水面下=意識下に沈む陰湿な執念を具現化した妖怪であるのだろう…主に女性の。「女性の執念は恐ろしい」等というと今日では怒られそうではあるが、妖怪は江戸までは男性文化だから。恐怖も不思議も男性目線なのである。

 
図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より