古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#012 おとろし

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おとろし

 これもはっきりした伝承はない妖怪。名前の表記も、「おとろし」「おとろん」「おどろおどろ」など、いろんな解釈があり、定まらない。鳥山石燕が神社の鳥居の上にたたずむ姿で描いた事で、鳥居の上から落ちてきて不信心者を懲らしめる妖怪という設定を誰かが創造したようだが、具体的な伝説があるわけではない。そのビジュアルと名前の音から、おどろおどろしい雰囲気を伴う妖怪であるという解釈が一般的になされている。「ゲゲゲの鬼太郎」では、日本の吸血妖怪という設定で登場した。

 特徴は、やはり全身の80%を占める長い体毛だろう。(別の妖怪絵巻では、似たような姿の妖怪が「毛一杯」という名前で紹介されている)「けうけげん」という別の妖怪もいるが、毛の塊のような姿は、実際存在することを考えると、生理的嫌悪感を刺激するものになりそうだ。残り20%は鬼瓦のような顔だ。大きな牙や爪が目立つ。乱暴にまとめると「毛と歯と爪の妖怪」ということになる。

 平安時代の人は、抜けた毛や切った爪は捨てずに壺にため込み、地下に保管していたと聞いた。他人の手に渡ると呪いなどに悪用されてしまうからだそうだが、そういった壺にため込まれた髪の毛や爪は、想像するだけでも気持ちが悪い。まさに陰の気の塊である。そういうものが化けて目を生やし、地下からずるずる出てくるのが、この妖怪ではなかろうかと思う。

図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より