古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#013 山彦

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山彦

 山の頂上で、向こうの山に向かって「やっほー」などと言うと、向こうの山のから「やっほー」と返ってくるアレ(今でもそういうことをして遊ぶのかな)。鳥山石燕は自分の作品の中では「幽谷響」という字を当てている。むこうの山の頂上にいるこの妖怪が、返事を返しているのだという。自然現象なので、体験できる場所も多く、日本各地に同類の話があり、「山の小僧」「山おらび」「おらびそうけ」「呼子」など、名称も多い。

 日本は山が多い国だから、ある山の頂上にのぼると、必ず周囲に山があり、その頂上が見える。隣の山の頂上は、見えてはいるが遠く隔たった異世界である。そこからはいろいろな妖怪が見いだされたのだろうか。ドイツのブロッケン山でも、山頂に出る怪物の伝説がある。こちらも山彦と同じ自然現象で、太陽を背にした自分の影が、山を覆う雲に映るのだが、似たような精神的背景があると思う。

 山は大昔から「人間の済まない領域」であり、「魔界」だった一方で、攻略しなければ生活出来ない「人と魔の共有する世界」でもあった。普通に過ごしていても事故に遭うこと多い。山に棲む妖怪の殆どは、そんな山の性格を反映してか、人の命を奪う恐ろしいものが多い。そんな中で山彦は、「比較的平和な山との触れ合い」を代表する妖怪なのかもしれない。

図:佐脇嵩之『百怪図鑑』より