古今妖怪図鑑

妖怪しか描かず、妖怪を哲学する、妖怪画家のブログ。妖怪しか描きませんし、妖怪の事しか書きません。

#046 青女房 あおにょうぼう

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青女房

 青女房という言葉は本来なら若くて官位の低い女官を指す言葉。鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』の説明によれば「荒れ果てた古い御所に棲む女官の姿をした妖怪で、ぼうぼう眉(剃っていない眉)で鉄漿をべったりと付けて、人が立ち入ると様子を見に来る」というものである。青いというのは本来の意味ではなく、やつれたとか顔色の悪い、または幽鬼類のという意味合いで用いられているのだろう。夜中に行灯の後ろに立つ『青行灯』という妖怪も居る。

 江戸時代公家は「禁中並公家諸法度」の制定により政治の場からは追放され、京都の御所周辺に集められて幕府の保護の元生活するようになった。江戸市中には公家の屋敷はなかったと思うが、古い土地には空き家になった公家の屋敷も多かったことだろう。そこに留まってしまった貴族文化の残り香のような妖怪である。

 新しい時代の人々、つまり江戸の庶民にとっては、なじみのない貴族の世界はさぞ怪しいものと映っただろう。独特の化粧法、古めかしい文化、さまざまな神道の儀式、閉鎖された社会。古に日本を支配していた天皇の一族。京都から遠く隔たった江戸の市民階級にとっては、妖怪扱いされるに十分なものがあったのかもしれない。

 未熟者ほど自分自身には自信がないのでモノで自分の価値を上げようとする。そんなわけでこの絵の青女房も、様々なもので己を飾っている。

 図:尾田郷澄作『百鬼夜行絵巻』より